
山梨で働く未来を、ゼロから描く 県の統合就活サイト「やまナビ!」
2026年3月1日、山梨県の就職支援サイト「やまナビ!」がオープンした。
AI診断や、企業と学生が互いに「いいね」を送り合うことができるなど
一般的な就職活動サイトとは一線を画す機能が並ぶ。
県庁ならではの、企業にも学生にも偏らない「中立」なポジションで
仲立ちをすることもウリの一つだ。
未来を支えてくれる小中学生向けのキャリア教育コンテンツも盛り込んだ。
5人の職員が1年半かけて挑んだ、就職活動サイト改革のストーリー。
■この記事でわかること
✔ 山梨県の就職支援サイト「やまナビ!」がオープンし、県内就職をサポート
✔ AI診断機能や「いいね」機能など、学生の声を反映した設計になっている
✔ 小中学生向けコンテンツで早期からのキャリア教育にも取り組む
■おすすめ記事
・めざせ、郷土を支えるアーキテクト!県内初の一級建築士認定校が誕生
・「素敵なブドウ農家」になりたい? 新規就農のリアルを訪ねて
・山梨県、スタートアップ絶賛応援中!「完全バックアップ」の理由
目次
「このままではいけない」
平成初期から更新されていないデザイン。増築に増築を重ねて5つに分散したサイト。スマートフォンに最適化されていない画面。山梨県の就職支援サイトは、長年の課題を抱えていた。
数字は深刻だ。大学生等のUターン就職率は21.8%。県内大学等卒業者の県内就職率は45.2%。つまり、県内の高校を卒業して県外の大学に進学した学生の8割近くが、そのまま県外で就職している。県内大学の卒業生ですら、半数以上が県外に流出しているのだ。
「山梨県内には世界に誇る技術を持つBtoB企業がたくさんありますが、その魅力がうまく伝わっておらず、県外に目が向いてしまうという課題を感じていました。サイトが古くて使いにくいことも、学生が県内企業を知る機会を奪っていたと思います」
山梨県総働く人・働き方支援課で就職支援事業全体を統括する畑山ゆかりさんは、危機感を抱いていた。ただ、問題はそう簡単ではなかった。サイト構築には数千万円かかる。限られた予算の中で新しいことをするには、既存の事業を廃止しなければならない。だが、現在行っている事業はどれも必要なものばかりで、削ることはできなかった。
出張先での会話が、プロジェクトを動かした
フェーズが変わったのは、2024年の1月頃のことだった。出張先で、畑山さんはサイト構築の問題をふと思い出し、同行していた部下の中込恭輔さんに声をかけた。「来年度、サイトリニューアルに取り組みたいんだけど、一緒にやってくれる?」
「ぜひ、ご一緒させてください。勉強させてください」。即答だった。

その後、畑山さんは管理職になり、日々の業務に追われてサイトのことを忘れかけていた。そこへ、2024年4月に採用されたばかり前島美帆さんと中込さんの2人が、打合せを希望してきた。いま抱えている課題についての相談かと思ったら、新しいサイトの企画案を持ってきた。
企画案は、畑山さんがイメージしていた「単なる統合」を遥かに超えるものだった。前島さんは東京の大学を卒業し、民間企業での就職活動も経験している。
そして、彼女はこう言った。
「県のサイトは初めて見ました」
就職活動をしていた当時、県のサイトを知らなかったという。
「企業情報が載っている県のサイトが学生に知られていないというのは、非常に深刻な課題だと身に染みて感じました」(中込さん)
就職活動生が見た「使えないサイト」
前島さんは東京の大学に通っていて、最初は東京で就職先を探していた。しかし、就職活動を続けるうちに「地元に帰りたい」という思いが強くなった。山梨のゆったりした環境や自然の中で、家族と一緒に過ごしたい。そう思うようになったのだ。
しかし、周りの友人でUターンを考えている人は少なかった。「周りはみんな『東京で就職』という感じでした。東京のほうが企業も情報も圧倒的に多いですから」
そんな前島さんが初めて県のサイトを見た時の感想は、シンプルだった。
「とにかく一言で言うと『分かりにくい』という印象でした」
企業情報は「新卒者就職応援企業ナビ」、イベント情報は「やまなし就職応援ナビ」といった具合で、目的ごとに5つのサイトに分かれていた。そのため、知りたいことに合わせてサイトを移動しなければならない。また、デザインも古く、今の若い人向けに変えていかなければならないと思った。
中込さんも、職員として学生や企業と接する中で、サイトの問題を実感していた。サイトが分かれていることで説明が非常に煩雑になる。サイト名に「新卒者」と入っていたため、「中途採用は対象外なのか」と聞かれることも多い。転職が当たり前になっている今の状況には、合っていなかった。
アクセス数は年々減少。SNS連携機能も、ほとんど活用されなくなっていた。
そして何より問題だったのは、スマートフォンへの最適化がされていなかったことだ。PC版のサイズで見るか、「スマホ版に切り替える」ボタンを押さなければならない。学生はほぼスマートフォンで情報を探す。それができないサイトは、存在しないも同然だった。
「Uターン就職率はなかなか上向かず、最近では21.8%まで落ち込んでしまいました。サイトをリニューアルすることで、県外に出た学生が山梨のことをもっと知るきっかけを作りたい」と畑山さんは新サイトに期待をかける。
AI診断と「いいね」で学生と企業をつなぐ
新サイトの目玉機能の一つが、AI診断システムだ。就職活動のスタート時に「自分に何が向いているか分からない」と悩む学生が多い。

まず自己分析をサポートし、その結果をもとに、知名度は低くても魅力的な県内企業を勧める。そうすれば、学生が未知の企業と出会うきっかけになる。
もう一つの特徴的な機能が、「いいね」機能だ。まるでマッチングアプリのような仕組みで、就職活動ツールとしては斬新だ。
いきなり説明会やインターンに申し込むのはハードルが高い。まずは気軽に「興味がある」という意思表示ができるようにする。この段階では個人情報は企業側に伝わらない設計になっているので、安心して使える。
企業側も、どのような学生が自社に興味を持っているかを把握でき、採用戦略に活かせる。双方が「いいね」を送り合う「相互いいね」の状態になれば、企業からインターンなどの最新情報が直接届くようになる。
就活生と企業の双方が「いいね」を出し合い、提供される情報の粒度が上がっていく仕組みだ(イメージ)
ただし、ここには重要な配慮があった。
「山梨県内においても『就活エージェント』の利用に伴うトラブルが相次いでいるとのニュース報道もあり、キャリアセンターの先生方も就活サービスの利用に慎重になっています。そのため、県が運営するサイトとしては、徹底的に学生・求職者優位の設計にし、安心・信頼して使えることを最優先にしました」(中込さん)
学生の個人情報を守りつつ、必要な情報を得られる。県だからこそできる、細やかな設計だった。
山梨大学の学生5人と共に作る
サイトの設計にあたって、実際の学生の声を聞くプロジェクトが立ち上がった。県内の学生と団体が1年間協働しながら事業を進める「Miraiプロジェクト」という取り組みに参画し、30以上のプロジェクトの中から、山梨大学の学生5人がこのプロジェクトを選択し、参加が決まった。
参加者の学年はバラバラで、就職活動真っ只中の3年生もいれば、まだ始めていない1年生もいた。就職活動生からは「こういう情報が欲しかった」というリアルな意見が出た。未経験の学生からは「何から始めればいいか分からない不安」について意見が出た。
「やまナビ!」という名前や、「山梨の就職、すべてココに。」というキャッチフレーズ、ロゴデザインも学生と一緒に考えた。
「自分たちの経験から出た言葉には説得力があります。その結果、非常に良いものができたと思います」(中込さん)
約700件のアンケート結果からも、貴重なデータが得られた。学生が求めているのは「給与・年収」の次に「福利厚生の充実度」。また、交通手段への不安、特に車通勤ができるかどうかを心配する声も多かった。
そのため、企業ページには「先輩社員の1日」というフォーマットを設け、起床から通勤、業務の流れなどを見られるようにした。また、育休取得率や年休取得状況などを横並びで比較できるコーナーも設けた。学生が気になる情報を入り口に、企業を比較・検討できる作りとなっている。
小中学生にも早い段階で県内企業を知ってもらう
新サイトには、一般的な就職活動サイトにはない、ユニークなコンテンツがある。小中学生向けのページだ。
高校生になってからでは進学準備で忙しくなる。もっと早い段階から県内企業の魅力を知ってほしい。部署内に教員職がいたため、その意見を取り入れて、学校の授業(総合学習)などで活用できるようなサイト設計にした。
このコンテンツを担当した濱﨑美保さんは「大学生や高校生だけでなく、小中学生といった早い段階から県内企業の魅力を伝えることで、将来的なUターン就職率の回復につなげたいと思っています」と話す。
濱﨑さんは、教育委員会にもアドバイスをもらい、小学生でも直感的に分かるデザインや配置を意識した。実際に工場見学や職業体験ができる企業の検索機能も備えている。

小中学生向けサイトと一般向けサイトを連動させることで、早い段階から「山梨で働く」ことを意識してもらう。地元の企業を知ることは、郷土愛の醸成にもつながる。未来への投資だった。
WEB知識ゼロから書き上げた仕様書
プロジェクト全体で最も苦労したのは、仕様書の作成だった。中込さんは、WEBの専門知識があるわけではない。
他県の仕様書を取り寄せて研究し、今回のプロジェクトに合うように組み合わせたり、アレンジしたり、膨大なボリュームの仕様書を、通常業務と並行して書き上げた。
「中込さんは情報処理の専門職ではないのに、一からリサーチして膨大なボリュームの仕様書を書き上げてくれました。彼の努力があったからこそ、このプロジェクトは成り立っています」(畑山さん)
旧サイトからの移行や、企業からインターンシップの情報を取り寄せるなどの作業を担ったのは、秋山晃佑さんだ。「いままではインターンシップ専用の特設ホームページで県内企業の情報を個別に収集し、掲載していました。一方、『やまナビ!』では、企業が入力したインターンシップ情報を学生が検索できるほか、興味のあるプログラムにそのまま直接申し込むこともできます。より利便性の高いサイトとなりましたが、その分、サイトオープン後の事業運営のことも見据えながら作業を進める必要があり、苦労しました」と秋山さんは話す。
1年半のプロジェクトに込めた5人の思い
2026年3月1日。「やまナビ!」が公開された。1年半という短期間で、予算獲得から設計、開発までを駆け抜けた5人。それぞれの思いを聞いた。

「ようやく形になったという実感が湧いています。ただ、サイト内で完結するのではなく、このサイトをきっかけに実際のインターンシップや説明会に足を運び、企業と直接出会ってほしいというのが最終的な願いです」(中込さん)
「市場に目を向けて、学生と企業の双方が抱える課題を解決したいという思いは、チーム全員の共通認識です。古い体質を脱却し、今の時代に合った形で県内就職を全力でサポートしていきたいです」(畑山さん)
「就活生だった時の自分が欲しかった情報を詰め込みました。特に地元に帰りたいと思った時、どんな企業があるのか、どんな働き方ができるのか。そういうリアルな情報がもっとあれば、もっと早く山梨での就職を考えられたと思います」(前島さん)
「目標としては、求職者の登録者数1,000人を掲げています。既存のメルマガ『ユースバンクやまなし』の登録者が約2,000人いるので、新サイトへの移行を促すことで、まずはこの数字を目指します。3年後にはさらに大きな規模にしていきたいですね」(濱﨑さん)
「採用情報やインターンシップだけでなく、奨学金返還支援制度など、県内企業と県が連携して進める多様な取り組みを一目でご覧いただけます。サイトを通じて、企業と学生をつなぎ、皆さまのキャリア形成や企業活動を力強くサポートするさまざまな仕組みを知っていただければ幸いです」(秋山さん)
Uターン就職率21.8%という数字を変えられるか。サイトは手段だ。ゴールは「山梨で働く」という選択をする若者を増やすことだ。
県内企業と学生の出会いが、一つでも多く生まれることを期待したい。
「やまナビ!」へのアクセスはこちらから。
文・稲田和瑛、写真・山本倫子


