
出荷まで待ち切れない! サンシャインレッド、今年こそは食べられる?
評判は聞いているけど、まだ食べたことがない——そんなアナタに朗報だ。
山梨県のオリジナル品種「サンシャインレッド」の生産体制が本格化してきた。
苗木の販売数が2万2千本を超え、今シーズンの出荷量は昨年の2倍に迫る勢いという。
入手困難が続いてきたが、今年はブドウを手に取るチャンスが広がりそうだ。
■この記事でわかること
✔ 苗木の販売本数が2万2千本を超え、今シーズンの出荷量は過去最多になりそうだ
✔ 生産を簡単に増やせない理由には「栽培の難しさ」がある
✔ 昨シーズンより出荷量増で、食べられるチャンスは広がりそう
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なぜいま、これほど注目されるのか
2025年9月、高級フルーツを扱う新宿高野本店(東京都新宿区)で140周年記念イベントが開かれた。集まった約20社のメディア関係者は花のような香りに驚き、香りのもとをたどっていくと、そこにはサンシャインレッドがあった。
試食が始まると、メディア関係者がどっと集まり、たちまち品切れに。県やJA全農やまなしのスタッフを慌てさせた。
また、同じ月に行われた「食べチョクぶどうグランプリ2025」では、ツジファーム(山梨市)のサンシャインレッドが総合大賞を受賞した。この結果は複数のメディアで報道され、「名前を聞いたことがある」という人が一気に増えるきっかけになった。
そもそも2024年シーズンに、品質最高ランクの「特秀」を獲得したハウス栽培の果実が東京・大田市場の初競りで「キロ1万円超え」となって話題になるなど、フルーツ業界では注目されていたが、2025年はサンシャインレッドにとって、大きな飛躍の年になった。
苗木は2万2千本へ
サンシャインレッドが市場デビューしたのは2024年シーズン。そのシーズンの出荷量は約25トンだった。2025年シーズンは約80トンに跳ね上がり、今シーズンはさらに拡大が見込まれる。
「120〜130トンは固いと思います。うまく行けば、150トン行くかもしれません」
そう語るのは、JA全農やまなし営農販売部次長の小宮山昭彦さんだ。

この数字を支えているのが、毎年着実に積み上げてきた苗木の販売数だ。JA全農やまなしや県などでつくる「山梨県オリジナル品種ブランド化推進会議(以下、推進会議)」によると、2026年シーズンまでの販売総数は約2万2千本に達した。
苗木を希望する農家が増えている背景には、山梨の果樹農家ならではの気質がある。
「山梨の果樹生産者たちは『挑戦心』があります。新品種が出ると『作ってみたい』と思う人が多く、サンシャインレッドの苗木購入に関する問い合わせは多く来ています」(小宮山さん)
小宮山さんがもう一つ理由に挙げるのは、リスク分散という視点だ。
「10年15年後にいまのシャインマスカット人気が続いている保証はありません。農家も将来を見据えているんです」(小宮山さん)
シャインマスカットへの依存を減らし、次の主力品種を育てておきたい。その受け皿として、サンシャインレッドは農家の間で着実に存在感を高めている。
誰にでも作れる品種ではない、だからこそ価値がある
ただ、栽培を希望しても誰でも簡単に作れるというわけではない。「推進会議」と連携してサンシャインレッドのブランド確立に注力する県果樹・6次産業振興課課長補佐の宇土幸伸さんはこう解説する。
「長年かけて開発したオリジナル品種のブランド力を高めるためにも、品質を落とすわけにはいきません。まずは篤農家である『匠』や、JA営農指導員の目が届く『JA出荷者』を中心に苗木を供給し、早期産地化に取り組んでいます」

サンシャインレッドは色と香りが最大の特長だが、「色付け」が難しい。綺麗な赤を発色させるには、適切なタイミングで太陽光を当て、地面に白い反射マルチシートを敷き、棚の枝葉落としや袋を外すタイミングを適切に管理する……など緻密な作業が欠かせない。
「営農指導員が『袋を外して』と伝えた日からわずか2日遅れてしまっただけの生産者の圃場で色付かなかったケースもありました。それくらい繊細なんです」(小宮山さん)
そのような背景があって、品質の高いサンシャインレッドを安定して作れる生産者は、いまのところ限られている。だから、希少でなかなか口にできない。

品種を守る戦い
サンシャインレッドが希少な理由はもう一つある。生産が極めて厳重に管理されているのだ。
JA全農やまなしや県などでつくる「山梨県オリジナル品種ブランド化推進会議」は、県の許諾を受けて一括して苗木の生産・販売を行っている。購入する生産者に対しても、「他の人に譲渡しない」などを定めた誓約書を提出してもらう。
苗木をどこで栽培しているのかも「トップシークレット」だ。

これだけ細心の注意を払うのには理由がある。長年の努力が水の泡になるような事例があとを絶たない。県やJAを含め、果樹生産にかかわる関係者が最も懸念するのは、品種の流出だ。
石川県が14年の歳月をかけて開発した高級ブドウ「ルビーロマン」は、2022年8月、韓国のデパートや高級スーパーで同名のブドウが販売されていることが発覚した。石川県が国の検査機関(農業・食品産業技術総合研究機構=茨城県つくば市)にDNA鑑定を依頼したところ、ルビーロマンと遺伝子型が一致した。
石川県は商標登録などの手段で対抗策を打っているが、いまもブランドの完全な回復には至っていない。
こうした過去の事例を踏まえ、山梨県は海外での品種登録・商標登録を進めており、万が一の流出にも対抗できる体制を整えている。
今年は食べられる?
ハウスものは6月ごろから出荷が始まる。ただ、流通先は現時点では高級果物店や市場経由が中心で、まだまだ誰もが気軽に買えるほどの量ではないという。
とはいえ、今シーズンの出荷量は最大150トンに達する可能性がある。実現すれば、昨シーズンの約2倍だ。数字だけ見れば、サンシャインレッドを口にするチャンスは確実に広がっている。
「いまは出荷量も少なく高級感もあるブドウなのでシャインマスカットよりも高値で価格形成されています。しかし、今シーズンからが正念場です。出荷量が増えても消費者の評価が高ければ価格は維持できます。PRに力を入れていきます」(小宮山さん)
生産者にとっては、手がかかるブドウだけに、コストに見合った値段がつくのかどうか、心中は期待と不安がないまぜだ。
ただ、農家が未来に向かって動き始めた事実は確かだ。山梨県オリジナル品種・サンシャインレッドがシャインマスカットを超える日は、着実に近づいている。
文・大野正人、写真・山本倫子


