
考えなくてもいい時代に、何を育てるか。未来をつくる授業
(連載:高度政策企画イニシアチブ vol.1)
検索すれば、すぐに答えが見つかる時代。
それでもなお、「自分で考える力」は必要なのだろうか。
山梨県が高校生に届けたのは、正解を教える授業ではなく、問いを立てる時間だった。
「未来の社会の担い手」を育てようと、
県職員を派遣して「課題解決型授業」を実施するこのプロジェクト。
仕掛人は、若手職員からなる新設の組織だ。
やまなしin depthでは、「県政フカボリ!」の新コーナーを始めます。
県が力を入れる重点施策をピックアップし、連載形式でその背景や課題、展望を県民の皆さまにお伝えしていきます。連載第二弾は「豊かさ共創スリーアップ」です。
■この記事でわかること
✔ 情報があふれる時代に必要な「考える力」とは
✔ 地域課題を“自分ごと”として考える授業のリアルな現場
✔「未来の社会の担い手」を育てるプロジェクトは新設の組織が企画した
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「考える力」が低下しているのは子どもたちだけなのか
今を生きる子どもたちの“考える力”が低下していると言われている。
子どもは、というより「子どもも」かもしれない。
AIやインターネットの進化により、大人も子どもも、「考える」ことをどこかで手放してしまってはいないか。
気になった瞬間、考えるよりも先にスマホを開く。検索窓に言葉を落とせば、それらしい答えがすぐに差し出される。
それで理解できた気になって、問いそのものは、いつの間にか消えていく。
2026年1月中旬。ひときわ冷え込んだ冬の日に、県が企画する「課題解決型授業」が行われた。
南アルプス市の県立巨摩高等学校の講堂に集まった約180人の高校1年生は、寒さにも負けず、活気にあふれていた。

手にはノートPCとスマートフォン。
少し前であれば当たり前だったノートや筆箱は見当たらず、少し驚いた。
考えなくてもいい時代がやってきた今。
それでも。いや、だからこそ。
「考える力」を養う授業が始まった。
OGが高校生に伝えたこと
今回授業を担当したのは、松木希実さん。2018年に巨摩高校を卒業した。
県の峡南林務環境事務所で県有林の管理を担当している。
「課題解決型授業」は、年齢の近い、原則として同じ高校を卒業したOB・OGが講師役を務めることも特徴のひとつだ。
松木さんは穏やかに生徒たちに語りかける。
「問題の本質を見抜き、適切な課題を設定するために必要なことは何でしょうか」
「漠然と問題状況を眺めるのではなく、解像度を上げた『問い』をたてることです」

スライドが切り替わり、「県有林の森林資源の有効活用」と大きく映し出される。
「この問題に答えられますか」と松木さんが尋ねると、生徒たちが考え込み始める。松木さんが担当する県有林。全体で、山梨県面積の実に約35%を占める。
保水や生物多様性を育むなど、森林にはさまざまな機能があることを説明したうえで、県有林を有効活用するアイデアを生徒たちから募る。
森林という地域資源をどう守り、どう生かしていくか。
生徒たちは自分たちなりのアイデアを持ち寄り、言葉にしていく。
グループワークが始まると、教室の空気は少しずつ動き出した。

各クラスから、1グループが代表してアイデアを発表した。
「人材を増やすために、林業について学べる学校を増やしたらどうか」
「体験型の施設が必要。子どもたちが遊べるアスレチックを作ってほしい」
「伐採した木材を活用して、キャンプ場を整備したらどうか」
さまざまなアイデアが飛び出し、松木さんは目を細めていた。


アイデアを発表する生徒たち
約9割が「次回も参加したい」
2025年度は、巨摩高校も含めて6校で「課題解決型授業」が実施された。テーマは、派遣された職員の担当に応じて、「水素の製造」「埋蔵文化財としての甲府城」「ケアラー支援」など多岐にわたった。
授業後のアンケートでは、平均して約9割の生徒が「次回も参加したい」と回答した。
受けたい授業のテーマを聞くと、「山梨の歴史や偉人」「リニア中央新幹線」「山梨県産果実」といったリクエストが挙がっている。
情報があふれる現代社会のなかで、表面的な情報やバイアスに流されず、物事の本質を見極める力を育てること−−。そんな狙いは、高校生たちに確実に刺さったようだ。
さて、このプロジェクトを企画した「若手職員からなる新設の組織」とはどんな存在なのだろうか。
その正体は
その名は、「高度政策企画イニシアチブ」。
新たな行政課題に柔軟に対応するため、若手職員を募って政策立案に専念してもらうチームだ。新たな司令塔として2025年度に設置された「高度政策推進局」の中にあって、先進的な政策を実現するためにさまざまな部局から集められた。年度途中に増員されて、いまは総勢10人で新たな道を切り拓いている。
プロジェクトディレクターの深澤正弘さんは「課題解決型授業」の狙いをこう説明する。
「情報が簡単に手に入る時代だからこそ、高校生には“誰かに用意された正解を探す”のではなく、“問題の本質を捉え、立ちはだかる壁にも堂々とチャレンジする力”を身につけてほしいと考えました。地域の課題を通して、自分の未来を考えるきっかけになればと思っています」
コンビを組んだ中込康就さんは「今回の目的は、自分で考える力を持ってもらうことと、一緒に地域の未来を作っていく当事者意識を育むことです。社会に出る一歩前の段階にある高校生は、5年10年たてば社会や地域を描く中心的な存在です。ぜひ一緒に考えてもらいたかった」と話す。

「高度政策企画イニシアチブ」は、県庁の中でどんな「触媒」として機能しているのか。vol.2ではその点にも焦点を当ててお伝えする。
文・奥山あやの、写真・篠塚ようこ


