EXPO2025でやまなしの魅力を発信 岡山との「フルーツ王国対決」の行方は?

編集部の予想を超える光景がそこには広がっていた。
大阪・関西万博に3日間限定で出展された山梨県ブース。
会場は大屋根リングの外で、立地は良いとは言えない。
それにもかかわらず、オープン前から人・人・人。
万博をきっかけに、山梨へ人を呼び込む狙いはうまくいきそうだ。
出展初日の様子を中心に、リポートする。

■この記事でわかること
✔ 東西のフルーツ王国の知事が対決し、火花を散らした
✔ 出展のコンセプトは「やまなしを体験」する
✔ 発信した魅力を山梨に還元する仕組みもあった

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人・人・そしてまた人

 駅を降りて東ゲートを入ると、正座したミャクミャクが「いらっしゃいませ」と迎えてくれた。朝だというのに気温はとっくに30度を超えている。大屋根リングの上の通路には少し風があるものの、汗が止まらない。30分ほど歩くと、山梨県ブースが入る「WASSE(ワッセ)」の建物にたどり着いた。

 8月22日の午前10時から「ハイクオリティやまなしフェスin万博」がスタート。富士山のモニュメントの前でオープニングセレモニーが始まり、来賓のご挨拶が続いているが、入口には早くも100人以上が行列を作っていた。お目当ては、山梨県産ブドウの試食券だ。職員たちは、押し寄せる人波を必死の形相で捌いていた。

山梨県ブースには人波が押し寄せた

「やまなしの魅力を国内外から訪れる方々に発信する絶好の機会です。これから3日間、全力でおもてなしに努めます」。出展責任者の新事業・地域ブランド課長、勝俣秀文さんは、普段は柔和な顔を引き締めていた。

新事業・地域ブランド課長の勝俣秀文さん

桃とブドウ、トップをめぐるトップの対決

 会場では、スペシャル企画が始まった。偶然、山梨県ブースの隣には、西のフルーツ王国を自認する岡山県がブースを構えている。来場者を前に、両県の知事がプレゼンして「トップはどっちだ!?」を決めるという。

東西フルーツ王国が激突。長崎知事と、岡山県の伊原木隆太知事(右)

 長崎知事が「山梨県は、桃、ブドウとも生産量日本一。しかも、新品種にも挑戦している。桃は『夢桃香』を出しました。シャインマスカットは生産量全国一で、さらに、赤いシャインマスカットである『サンシャインレッド』を開発した。シャインマスカットが(ガンダムの)ザクだとすると、赤いのはシャアです」とジャブを放った。これには岡山県の伊原木隆太知事も爆笑をこらえきれない。

 サンシャインレッドを口にした伊原木知事は「他県のものがこんなに美味しいはずはない」と、ロープ際に追い詰められたように見えた。

 対する伊原木知事は「岡山の場合は、ピオーネが生産量日本一。むちゃくちゃ美味しいんです」と強調。口にした長崎知事が目を剥く様子を見ながら「ほら、言葉もないとはこのことです」と勝ち誇った様子で応じた。

 勝者の判定は、会場からの拍手で決する。両県ともに大きな拍手を浴びて、司会者が「甲乙つけがたし!引き分け!」と裁定した。

 対決後は、山梨県が「桃のオープンサンド」と甲州ワイン、岡山県が「白桃のタルト」と岡山県新見市産の赤ワインをそれぞれふるまい、和やかな雰囲気でのおもてなしが続いた。

引き分け、そして和やかにおもてなしモードの両知事

 実は、この「対決」には裏話がある。多忙な両知事のスケジュール調整に難航し、一時は開催が危ぶまれた。ここで橋渡しをしたのが、現岡山県副知事の尾﨑祐子さん。かつて山梨県財政課長を務めた縁で、実現に尽力してくれたという。

コンセプトは「やまなしを体験」

 まるで山梨を訪れたような気分になり、いつか実際に山梨に来てみたくなる。そんな体験を提供するのが、この出展のコンセプトだ。

 会場では、県産品をふんだんに使った試食が大人気だった。サンシャインレッド・甲斐キング・シャインマスカットの3種ブドウセットや、県産桃のフルーツソースをかけたかき氷を毎日提供した。山梨の美味しいミネラルウォーターが飲めるサーバーも配置されている。ブドウジュースやワイン・日本酒の試飲も大好評だった。さらに、暑さに強い県奨励品種米の「にじのきらめき」や南部茶プレミアムリーフティー、県産グリーン水素で焙煎したコーヒーも紹介されていた。

 食べ物だけではない。

 かつては「甲斐絹かいき」で一世を風靡したテキスタイルの産地として、ネクタイや傘、夏服の「かいくーる」などが展示された。

 隣には、甲府市を中心としたジュエリー産業の真髄が並べられた。美しく輝くネックレスやペンダントに、来場者が足を止めて見入っていた。

 23日には、「印章・篆刻てんこく」を紹介するため、好きな一文字を篆刻する体験会を開催。最終日の24日には、水晶石を実際に研磨してブレスレットの制作に挑戦してもらう企画もあった。

 これだけ多様な展示を統括したのは、新事業・地域ブランド課の羽中田健児さん。多くの関係者との調整に奔走した。「気力で乗り切った3日間でした」(羽中田さん)。3日間で7万人が来場した会場を飛び回った。

展示を統括した新事業・地域ブランド課の羽中田健児さん(中央)

EXPOを山梨に還元

 万博で来場者に体験してもらったやまなしの魅力をそのままで終わらせてしまうのはもったいない。そのために用意された企画が「NFTデジタルスタンプラリー」だ。万博会場内でアプリを使ってNFTを集めてもらう。さらに、実際に山梨県内の指定スポットでNFTを集めてミッションをコンプリートすれば、「ミッションクリアNFT」として、県の水素キャラクター「水素のスイチョ」がブドウを食べるレアNFTをゲットすることができる。さらに、「リニア体験乗車チケット」などの抽選にも応募が可能になる。

*NFT(Non-Fungible Token):コピーが不可能な電子証明付きデータ

※「山梨&EXPO周遊デジタルスタンプラリー」10月13日まで開催中

 つまり、「また山梨にも来てくださいね」というインセンティブになるのだ。

 この企画の仕掛け人は、山梨県顧問でホリプロデジタルエンターテインメント社長の鈴木秀さんと新事業・地域ブランド課の杉野巧さんだ。

山梨県顧問でホリプロデジタルエンターテインメント社長の鈴木秀さん

 「ハイクオリティな体験を万博会場でしてもらう。でもこれは疑似体験です。ぜひ山梨を訪問していただき、その魅力を実感してもらいたい。そうした回遊が実現すれば、万博の経済効果を山梨県民に還元できると考えています」(鈴木さん)

甲冑かっちゅう姿で「山梨VS岡山」の対決イベントも盛り上げた杉野巧さん(県撮影画像)

「今回の万博出展が一過性の取り組みに終わらないように、来場後の回遊につながる仕組みを考えました。万博会場でのデジタルスタンプラリーの獲得数は、想定を大きく上回る約7千枚。やまなしの魅力を発信する県公式LINEの新規登録者数も、関西圏の方を中心に約1万5千件ありました」(杉野さん)

 暑くて熱い、山梨のEXPO2025は幕を閉じた。

文・大野正人、写真・山本倫子

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