まん延防止等重点措置を山梨県が「要請しない」3つの理由

 新型コロナウイルスのオミクロン株による感染が拡大していた2022年2月、まん延防止等重点措置は全国の7割以上の36都道府県に適用されていた。重点措置が適用された場合、自治体によって基準は異なるものの、飲食店などの営業時間の短縮や酒類提供の自粛が求められる。そんななか、山梨県は関東甲信越で唯一、重点措置を国に要請しなかった。その狙いはどこにあるのか、長崎幸太郎知事に真意を聞いた。

理由1:第6波では飲食店は感染源になっていないから

 新型コロナウイルスの感染が広がった2020年3月以降、多くの自治体が政府に対し、重点措置の実施を要請した。しかし、山梨県はこれまで一度も、政府に重点措置の実施を要請していない。

「感染症を警戒する山梨の県民性かもしれませんが、感染が拡大した後、県内の飲食店に出かける人が減りました。そもそも、県内の飲食店は感染防止の意識が高く、結果的に感染防止の水準も高い。他の都道府県にはそれぞれの事情があるので、重点措置が必要なのかもしれません。でも、山梨県の場合は、飲食店を規制しても効果が見込めません。実際、感染源については、幼稚園や小学校、大学などが多く、飲食店での感染が少ないことがデータ上明らかになっています。県内に重点措置を発令して、飲食店を規制するのは合理的な判断ではないと考えました」

山梨県内で確認されたクラスターは、学校や社会福祉施設、医療機関が多く、飲食店が少ないことがわかる(出典:山梨県感染症対策グループ)

飲食店のがんばりで飲食店はすでに安全な場所になっている

 第5波時の重点措置と合わせ、長崎知事は2021年8月6日、不要不急の外出自粛を要請するなどを柱とする「臨時特別協力要請」を発表した。長崎知事は「あの時点で感染拡大を緩やかにする一定の効果はあった。しかし……」と重点措置の“副作用”も大きかったと振り返る。

「人は一度、外に出なくなったら、重点措置が終わっても人出が回復しないんですよ。withコロナ社会の実現のため、全国でもっとも厳しい飲食店の感染症防止対策『やまなしグリーン・ゾーン認証』を2020年7月から運用してきました。全国に先駆けて、地域一丸となって経済が回り続ける社会を築こうとがんばってきたのです」

グリーン・ゾーン認証の記事はこちら

 その上で、コロナ禍を必死に凌いできた飲食店の努力について知事はこう話す。

「この2年間、山梨県の飲食店で大規模なクラスターはほぼありません。パーテーションをさらに高くするなど、飲食店の皆さんが努力して積み上げてきた成果が、いままさに花開いていますから」

理由2:県民全員がエッセンシャルワーカーなのに
協力金で救えるのは飲食店だけだから

 長崎知事が重点措置を合理的な判断としない背景には、「デルタ株」が猛威を振るった2021年夏の感染「第5波」の経験がある。そのころ、山梨県は人口10万人あたりの1週間の感染者数や病床の使用率などがいずれもステージ4に達していた。そうしたこともあり、2021年8月20日から9月12日までの間、重点措置が適用された(この際も山梨県は政府に対して重点措置の要請はせず、政府が山梨県への適用を決めた)。

「重点措置を出しても、救えるのは飲食店だけであって、飲食店にお酒を納品する酒屋さんやおしぼり業者などには協力金を出せないんです。コロナの影響を受けたのは、飲食店だけではありません。そう考えると、不公平ですよね。私たちは県民全員が県民の暮らしに欠かせないと考えています。県民全員がエッセンシャルワーカーなのです」

 第5波による重点措置の期間、知事が定める区域の飲食店は午後8時までの時短営業や終日、酒類提供をしないよう要請された。飲食店が休業したり、時短営業したりすると事業者には「協力金」を支給する。しかし、飲食店向けの卸業者らは、重点措置による補償の対象外となった。

「飲食店の協力金だけでも、山梨県で1日4億円かかります。財源は国が手当てしてくれるとはいえ、野放図に使いまくっていいものではありません。重点措置は地域によっては、短期的に感染を抑制する効果はあるのかもしれません。でも今後、『wtihコロナ社会』を作らなければならないのに、それを足止めしてしまうのです」

県庁グリーン・ゾーン推進課の入り口には、「県内施設へのきびしさは、旅人へのやさしさです。やまなしでは。」と書かれたポスターが貼ってあった

理由3:経済を回していく「withコロナ社会」をめざしているから

 山梨県は1月28日、地域経済の活性化を図るため、「やまなしグリーン・ゾーン認証」を受けている飲食店などで利用できる「プレミアム食事券」を発行した。

 食事券は30万セット発行され、1セット1万円(1千円×10枚)分の食事券と1千円(500円×2枚分)のタクシー・運転代行利用券を現金8千円で購入することができる。この食事券は6月30日まで使える。

プレミアム食事券について詳しくはこちら

「働いてお金を稼ぐ、という環境を整備する必要があります。都道府県によって実情が異なるので、他の自治体の判断にどうこう言う立場にはありませんが、プレミアム食事券について山梨県では発行の中止はまったく考えていません」

 飲食店以外の産業に対しても、無担保無利子の融資制度や、低利の借り換え制度などの支援策を整備している。そのほか県内商工会議所や商工会と連携して、事業復活支援金の申請サポート体制をつくった。

コロナ対策の各種支援策について詳しくはこちら

 しかし、「他の県は重点措置で協力金がもらえるのに、なぜ山梨はもらえないんだ」と反発する飲食店事業者はいないのだろうか。その点を尋ねると、知事は表情を少し崩した。

「一部の政治家の方から苦情めいたことを言われましたが(笑)、飲食店の皆さんにはおおむね理解をいただいていると考えています。この2年間で、県内の飲食店は努力を重ねて感染防止対策がちゃんとできています。営業を継続できる基盤があるんです。それなのに重点措置を実施すると、働かずに『協力金』をもらう人がいる。こうした実例をつくることは将来、モラルハザード(倫理観を失うこと)を引き起こしかねないと思いませんか」

 未知のウイルスはどう変異するか予測ができない。今後また厳しいフェーズが到来するかもしれない。知事は最後にこう話した。

「それでも、なんとか凌ぐしかない。コロナ感染のデータに基づき、どういまを対処すればwithコロナ社会を実現できるのか。客観的に判断して、これからも適切な施策を講じていきます」

文・板垣聡旨、写真・今村拓馬

関連記事一覧