中高生の新スポット「放課後cafélab」ってどんなとこ?

中高生が放課後に過ごす場所はどこだろう。
カラオケ、カフェ、ゲームセンター?
時間を気にせず、お金もかからず、安心して過ごせる場所があればいいのに――。
そんな声にこたえ、県は「放課後cafélab(カフェラボ)」をオープンした。
子どもたちが運営にかかわり、成長できる“居場所”だ。

■この記事でわかること
✔ 図書館など既存の地域の施設は、中高生にとって「居場所」と認知されていなかった
✔ 「放課後カフェラボ」の運営を担うのは高校生メンバーたちだ
✔ ソファやマットも設置されて「居場所」は進化中!

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「放課後は家に帰るしかない」

 県内の中高生に放課後の過ごし方を聞いてみた。

「友達とカラオケに行く」

「カフェでおしゃべりする」

 しかし、その後にこんな声がつづく。

「でも、お金がかかるんだよね」

「毎日は遊べない」

 ある男子高校生は「友達と集まれる場所がないから、学校が終わると家に帰るしかない」と寂しそう。

 2023年6月、県は子どもと若者を対象にアンケート調査を実施した。中高生が落ち着いて過ごせる場所として「図書館など、地域の施設」との回答が高くなると想定していたが、結果は中学生で7%、高校生は3%と非常に低い数字だった。既存の施設が「居場所」として認知されていないことが浮かび上がった。

 そこで、県は地域社会の中に中高生の居場所を増やそうと、「放課後カフェラボ」を開設した。

「放課後カフェラボ」はイオンモール甲府昭和とJR身延線・常永駅から徒歩5分の「妙福寺」の2カ所で開かれている。当日受付で、県内在住の中高生は無料で利用できる。開催場所と日時は県のホームページから確認することができる。

 ここは、ただスペースを提供するだけではない。“子どもと一緒に居場所をつくり上げていく”という新たなチャレンジの場になっている。

どんな居場所にしたい?

 2025年7月のオープンにあたってイオンモール甲府昭和でキックオフイベントが開催された。県内在住の高校生8人が集まり、「AIを活用して、放課後カフェラボのロゴをつくる」ワークショップだ。

「放課後カフェラボ」のロゴづくりに挑戦

 ワークショップの講師を務めたのは、東京のAI企業「STANDARD」の岡田光了さん。岡田さんはAI活用支援の専門家として全国で研修を実施している。

 岡田さんが「AIを使ったことがある人は?」と質問すると、全員の学生が手を挙げた。しかし、「AIで絵や音楽を作ったことがある人は?」と聞かれるとほとんどの手が下がった。

ワークショップの講師を務めた「STANDARD」の岡田光了さん

 まずはAIの基本的な使い方をわかりやすく説明する。その後、「みんなでどんな居場所にしたいか、キーワードやアイディアを出そう」と提案した。

 学生たちは3つのグループに分かれ、お互いに意見を出し合いながら付箋にキーワードを書く。

「マンガやゲームがあったらうれしい」

「静かに勉強できる場所がほしい」

 集まった“居心地の良い場所のキーワード”をイラスト生成AIアプリに入力すると、3グループそれぞれに個性の違うロゴが完成した。

 最後に各グループが「どんな居場所をイメージしてつくったのか」を発表し、ワークショップを締めくくった。

飛び交う意見。キーワードを付箋に書いていく

 友だちに誘われて参加したという高校3年の女子生徒は「普段は話す機会がない他校の人たちとも話せて楽しかった!」と打ち解けた様子。フリースペースだからこそ、違う学校や学年の人たちともフラットに交流できるメリットがある。

 “中高生のキッザニア” 

「放課後カフェラボ」には見守り役として大人も常駐している。大学生のボランティアスタッフや、子ども食堂「寺GO飯(てらごはん)」などを運営する一般社団法人「ソーシャルテンプル」の僧侶が必要に応じて子どもたちをサポートする。

 ソーシャルテンプル代表で妙福寺僧侶の近藤玄純さんは、ワークショップ中も各グループをまわり、子どもたちの輪の中に入って話を聞いていた。

ソーシャルテンプル代表で妙福寺僧侶の近藤玄純さんは、ワークショップの様子を見守っていた

「居場所づくりという自治活動には、さまざまな“学び”があります。ここを単なる遊び場ではなく、子どもたちの成長につなげる“中高生のためのキッザニア”のような体験ができる場所を目指したい」(近藤さん)

まるで「金八先生」みたい

 キックオフイベントから3カ月が経った10月初旬、「放課後カフェラボ」はどんな居場所になっているのだろうか――。

 近藤さんを再び取材すると、「うーん」と唸った。子どもたちの運営について、「なかなか一筋縄ではいかない。山あり谷ありですね」と話す。

 現在、運営や企画を主導する「カフェラボ実行委員会」には、高校生を中心とした十数人のメンバーがいる。「放課後カフェラボ」の開催日には毎回10人程度が集まり、運営方法やカフェラボの周知活動などについてのミーティングが行われている。

 高校生たちの提案で、8月に「放課後カフェラボ」のチラシを配るPR活動を実施し、9月には地元企業のSNSインフルエンサーを招いてSNSマーケティングの勉強会を開催した。

 順調に活動の幅を広げているように思えるが、「思春期の子どもたちなので、人間関係に悩む子もいる」と言う。

 友人関係や恋愛などさまざまな悩みを抱えている子や、部活や受験勉強が忙しくて思うように活動に参加できない子もいる。

 みんなが居心地の良い場所をつくるために、時には自分と反対の意見に耳を傾けることも大切だ。しかし、思春期の子どもたちにとっては素直に納得できないこともある。

「ここは多様な人が集まる“社会の縮図”のようなもの。子どもたちは表現方法がストレートなので、反発してぶつかることもあります。まるでドラマの『金八先生』みたいです」(近藤さん)

 しかし、こうした壁を乗り越えながら人間関係を構築していく過程が「子どもたちをなにより成長させてくれる経験」になる。そう信じて、近藤さんは子どもたちを見守っている。

やりたいことを実現できる場所

「放課後カフェラボ」には、一般的なフリースペースとは違う特徴がもうひとつある。それは、子どもたちが考えた「企画」を、周りの大人が実現に向けてサポートしてくれることだ。

 たとえば、9月に行われたSNSマーケティング勉強会もそのひとつ。子どもたちだけで地元企業と連携することは難しくても、大人のサポートによって企画が実現できる。

 県こども福祉課課長補佐の西巻真人さんは「勉強会でも、ゲーム大会のようなお楽しみイベントでもいいと思います。“こんなことやってみたら面白そう”と思いついたアイディアをどんどん形にしてほしい」と話す。今後は学生たちが自らSNSで「放課後カフェラボ」の情報を発信していく予定だ。

まだまだ居場所は進化する!

 プレオープン時のイオンモール昭和甲府のスペースは机と椅子が並べられているだけだった。そこからソファが置かれ、寝ころべるマットが敷かれ、子どもたちがくつろげる空間を少しずつ整えてきた。

 Wi-Fi設備や充電設備はもちろん、スマートフォンによる動画撮影コーナーもある。子どもたちの意見を取り入れながら、より良い空間を目指して設備を充実させている。

 最近、チラシを見てふらっと訪れた学生が「放課後カフェラボ」で出会った子どもたちと仲良くなり、「カフェラボ実行委員会」の新規メンバーになった。子どもたちのつながりの輪がだんだんと広がっている。

 県こども福祉課課長の依田勇人さんは「県としても初めての試みなので、どんな場所になるのか期待しています。『放課後カフェラボ』は居場所づくりのモデル事業です。ここで得た知見や成果を、県内の市町村に共有したい」と話す。

こども福祉課課長の依田勇人さん(左)と課長補佐の西巻真人さん

 中高生が「ここに集まろう」と思える安全な居場所にするにはどうしたらいいのか。子どもたちと一緒に手探りしながら、少しずつ前に進んでいく。

文・北島あや、写真・今村拓馬

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