サンシャインレッドがやってきた! 幻のブドウを食べられるスポットは?
「実る赤い宝石」ともいわれる山梨県オリジナル新品種のブドウ「サンシャインレッド」がいよいよ本格的な収穫時期を迎える。生産量が少なかった昨年まではほとんど一般流通することがなく、評判を聞いて食べたいと思ってもなかなかお目にかかれなかった。
編集部は取材を重ね、「幻のブドウ」を手に取ることができるかもしれないスポットを発見!
「今年こそ食べたい!」というあなたは必見だ。
■この記事でわかること
✔ 山梨でしか体験できない味がある
✔ サンシャインレッドは開発に15年をかけた奇跡のブドウだ
✔ サンシャインレッドには、ここで出会えるかも!?
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山梨でしか味わえないパフェ
美味しいと評判だけど、どうしたら食べられるのか――。そう嘆いているあなたにオススメしたいのが、サンシャインレッドのスイーツだ。
8月24日から山梨県立博物館に併設されたカフェ「Museum café Sweets lab 葡萄屋kofu」で、サンシャインレッドを16粒あしらった贅沢なパフェが登場する。「サンシャインレッドのグラデーションパフェ」は9月中旬ごろまで、数量限定で販売される(無くなり次第終了)。
カフェのこだわりは、“完熟果実×スイーツ”のコラボだ。パフェやケーキに使用するのは、仕入れから1~2日しかもたないほど熟しきった果実のみ。県内の果樹農家と協力して、通常の流通ルートでは出荷できないほど完熟した果実は「ここでしか味わうことができない美味しさ」だと話題を呼び、県外からも多くの人がやってくる。
大注目のサンシャインレッドを使ったパフェとは、一体どんな味なのだろう。
カフェを経営する株式会社プロヴィンチア・代表取締役の古屋浩さんは、サンシャインレッドの魅力を「とにかく香りが素晴らしい。ローズや蘭のような香りがします」と話す。
古屋さんは、昨年初めてサンシャインレッドを食べたときから「これをスイーツに使いたい」と心に決めていたという。しかし当時は生産量が少なく、カフェで提供できる状況ではなかった。
そのことを知った県は今年、「サンシャンレッドの魅力をスイーツで発信してほしい」と古屋さんに協力を申し出た。県職員がJAの出荷場をまわるなどして、一定量のサンシャインレッドを確保する見通しがついた。6月末、新作パフェの開発が本格的に始まった。
サンシャインレッドの香りを生かす素材はなにか――。
古屋さんが試行錯誤して選んだのは、砕いたサンシャインレッドの果実を甲州ワインと合わせ、ゼラチンで固めたジュレと花のシロップだ。
甲州の緑色ジュレに、黒ブドウの人気種「ベリーA」のワインと巨峰の実を混ぜた赤色ジュレを合わせた。サンシャインレッドの果皮色のようなジュレのグラデーションが美しい。
別添えの花のシロップはローズから抽出した。まるでバラの花びらが揺れているように見えて、サンシャインレッドと香りのマリアージュが楽しめる。
さらに、サンシャインレッドのタルトも近日中に登場する予定だ。レシピを考案中の古屋さんはタルトのイメージデッサンを見せてくれた。
「サンシャインレッドの華やかな味を引き立てるために、軽めな口どけのクリームと、黒ブドウやカシスなどを入れたやや重めのクリームの2種類を、素材や濃度を変えて試作しています。また、黒ブドウの代表格である巨峰を使って全体の味のバランスを調整しています」(古屋さん)
最近、“香りを取り入れたスイーツ”が密かなトレンドになっている。古屋さんはサンシャインレッドのデビューはスイーツ界にとっても衝撃的だと語る。
「サンシャインレッドは香りが良く、甘さが優雅なので、ブームの流れにのって成長できる果実だと思います」(古屋さん)
15年の歳月をかけた奇跡のブドウ
「サンシャインレッドはどうしてスーパーで買えないの?」
「そんなに人気ならもっと生産すればいいのに」
そんな消費者の声が聞こえてきそうだが、簡単にはいかない事情がある。
2023年8月に商標登録された「サンシャインレッド」は、15年の歳月と多くの手間をかけて生み出された、奇跡のブドウ。まだ苗木を育成中の農家が多く、出荷できる農家が限られるため収穫量が少ない。
そもそも、新種のブドウを開発するには長い年月がかかるのだ。
異なるブドウ同士を交配し、できた果実から種を採取し、植えて苗木を育てる。さらに5~6年を経てようやくブドウが実り始める。
県果樹試験場によると、事前に種の遺伝子を診断することで「何色のブドウができるか」までは把握することができるが、味や品質は、実際にブドウができるまで育ててみないとわからないのだという。毎年100種以上を果実調査しても、“味”と“見た目の美しさ”の条件を両方クリアできるブドウは多くて2割程度だという。
品質の安定性もハードルだ。1年目に品質の良いブドウができたとしても、2年目の味が悪ければ、その木を切って新しい苗木を植える。結果、8〜9割の木が淘汰され、ほとんどが実験段階で消えていくという。こうした厳しい選抜試験を繰り返し、新品種としてデビューできるブドウはごく僅かだ。
さらに、サンシャインレッドは育てるのに手間がかかる。
サンシャインレッドの特徴である赤色は、収穫前のブドウ畑に白いシートを敷き、日光の反射を下からも当てることで着色する。ひと房をまんべんなく赤く色づける作業は、多くの人手と時間を要する。
こんな気の遠くなるような地道な努力を積み重ねて誕生したサンシャインレッドをブランド化していくためには多くの人に食べてもらい、その美味しさを実感してもらう必要がある。それには「品質の良さ」と「安定的な供給」の両立が欠かせない。
サンシャインレッドを安定的に供給できる体制を整えるため、県は本格的に動きだした。2023年度までに県内のブドウ農家に約1万5000本の苗木を供給。昨年3.7tだった出荷量は、今後、年々増えていく見通しだ。また、県農政部と県内JAが協力しながら果樹農家に栽培方法を指導して、品質の良いブドウの生産を後押しする。
年月が経つほどブドウの木が成長して収穫量が増えるため、生産量は今後、右肩上がりに伸びていく見込みだ。
どこに行けば出会える?
ところで、今年はサンシャインレッドを食べられるのだろうか?
JA全農やまなし営農販売部次長は「まだ出荷量が安定していないので、直売所では入荷次第販売している状態です。ブドウの木が若いので、まだ品質の良いものはごく一部ですが、徐々に品質は上がっています。7月上旬には初めて品質最高ランクの“特秀”が出て、東京・大田市場の初セリで1㎏あたり1万円の値が付くという嬉しい知らせもありました」と話す。
8月22日、筆者は規模の大きな直売所に問い合わせてみたが、「まだサンシャインレッドは入荷待ちです」という返答だった。
やはり幻のブドウなのか。半ば諦めつつ、「JAフルーツ山梨 フルーツ直売所 八幡店」(山梨市)に問い合わせてみると――。
「サンシャインレッドありますよ」
「えっ?」
「8月19日ごろからサンシャインレッドが入荷し始めました。1回の入荷量は10~20パックくらいです。観光客が“テレビで見たことあるブドウだ!”と言って、お土産に買われていくことが多いですね。珍しい品種ですし、種無しで皮ごと食べられるので興味を持たれる方が多いです」
まだ生産量が十分ではないため、すべての直売所に入荷されているわけではないが、今期の収穫はスタートしたばかり。直売所を訪ねてみたら、チャンスがあるかもしれない。
人気者のサンシャインレッド。出荷したてのこの時期に、もし出会えたなら、あなたはラッキーだ。
文・北島あや、写真・山本倫子、今村拓馬