「かいくーる」新作が登場　郡内織物夏服をインバウンドにも売り込め！

2025.09.10

「かいくーる」。
長い歴史を持つ山梨の「ハタオリ産地」の粋が詰まった夏服だ。
誕生から2年。新たな進化を遂げつつある。
インバウンドの目を惹きそうなデザインや、
2025ミス・インターナショナル日本代表が監修したラインナップまで。
今年の新作に注目だ。

■この記事でわかること
✔ 2023年夏の全国知事会議でデビューした山梨発の夏服「かいくーる」は、新規参入メーカーも含めて新作が発表された
✔ かいくーるが売れれば、ハタオリ産地全体が潤う仕組みがつくられている
✔ 新作かいくーるの魅力は県公式TikTokアカウントで発信中だ

全国デビューから2年……
2025年の売れ行きは？
かいくーるが海を越えていく、かも？
ミス・インターナショナルもかいくーるに参入！？

全国デビューから2年……

　逆風にさらされている山梨県の織物産業をどうするか──もともと、かいくーるはそんな課題を解決するために開発された。

　明治から昭和初期にかけ、一世を風靡した絹織物「甲斐絹かいき」。その甲斐絹をルーツに持つ織物の産地である山梨県は、ネクタイの生産量日本一を誇る。しかし、昨今は猛暑やクールビズの影響でネクタイの需要は低迷していた。そのうえ、コロナ禍によって在宅勤務やオンライン会議が浸透し、ネクタイの出番はさらに減った。

　そこで県は、高度な機織りの技術を生かしつつ、現代のビジネスシーンにも適合する新しい“夏服”の開発に着手。全国知事会議の公式ウェアという形で初披露した。

　2023年7月、全国から集まった知事全員がこの夏服に袖を通した。通常、全国知事会議のニュースはあまり大きく取り上げられないが、白、ワインレッド、ストライプといったカラフルかつ涼しげな知事たちの姿は、集合写真とともに全国メディアに掲載された。「山梨県は全国有数の織物産地」という認識を、改めて広く轟かせた瞬間でもあった。

　全国知事会議での好評を受け、県は、山梨県絹人繊織物工業組合、関係市町村及び地元企業等と協力して、山梨の夏服普及促進協議会を設立、本格的に“山梨の夏服”開発に着手した。

　2024年6月からは、県内企業4社が計12デザイン20製品を製作し、一般販売も開始した。その際、山梨県の夏服にふさわしい愛称も募集され、集まった939点の中から、「甲斐（かい）」と「クール（涼しい）」を組み合わせた「かいくーる」に決定した。

　ただ、一般販売を行うには懸念もあった。

　かいくーるに使用されている素材はオーガニックコットンやキュプラ（コットンリンターを原料とする再生繊維の一種。吸湿性・放湿性に優れ、静電気も起きにくい）といった高機能素材が中心だ。そのため、中心価格帯は1着あたり1万5千円前後と決して安価ではない。初年度ということもあり、認知もどれだけ広まっているか不透明だった。

　ところが、一般販売を始めた2024年だけで100着ほどが売れたという。

「暑い山梨の夏を乗り切りたい」というニーズがあるとふんだ協議会と事業者は、翌年度もかいくーるの製作と販売を続けていくことに決めた。

2025年の売れ行きは？

　そして、迎えた2025年の夏。果たして、今年は何着売れたのだろうか。期待をにじませながら、産業振興課の阿部純さんに尋ねた。

「何着……そうですね。そもそも、数字だけを見るのはあまりよくないと思うんです」

　阿部さんは言葉を選びながら話す。

　まさか……昨年よりも売れなかったのだろうか。

「数字にふれる前に、まずはかいくーるの仕組みをお話しします」

　阿部さんの話によると、かいくーるには、前述の「山梨の夏服普及促進協議会」が発行した専用のタグが付けられている。

　タグは、「かいくーるの規格に準じている」と認められた衣類にのみ与えられる。具体的には、①郡内織物を使っていること、②山梨県の販売事業者が製作をしていること、といった基準があり、それらを満たしているものにだけタグが発行され、かいくーるとして販売できる。

「それで、今年は何着売れたのかという話ですが……。このタグの発行部数を数えると、最低限の数は把握することは可能だと思います。ですが、2025年は新規事業者さんも増え、日毎に新作も発表されている状態です。つまり、現在、かいくーるは事業者さんが自主的に新作を製作し、一般販売をしてくださっているフェーズに突入しています。初期のように県が主導で新作をお願いし、「○○さんが買ってくれた」という状況であれば、どのデザインが何着売れていますとすぐ言えるのですが・・。今は、聞かれても直ぐに正確な数は把握できないんです」

かいくーるが海を越えていく、かも？

　2025年現在、かいくーるの製造を行っているのは4社。昨年から製作を行っているAGLUCA有限会社、CREATIVE BASE JAPAN、株式会社前田源商店に加え、株式会社エルトップが新規参入している。

　2024年と比べて、デザインにも変化が起きているという。産業振興課の渡辺麻友香さんはこう語る。

「昨年までは、事業者さんも“県主導のプロジェクト”という認識が強かったのだと思います。デザインも、シンプルなシャツなど、オフィスでの利用を想定しているものが多かったのですが、今年は異素材を組み合わせたものからアロハシャツまでさまざまです」

　この日、渡辺さんはAGLUCAのシャツを着用していた。白地に太さの異なるストライプを組み合わせた涼しげなデザインで、胸元のポケットには、甲府市で加工された水晶のボタンが光る。

「新たに事業に参加したエルトップさんはインバウンド向けにシャツをデザインされています。富士山の絶景スポットとして知られる新倉山浅間公園が描かれたものなど、海外の人に喜ばれるようなシャツを、2025年8月時点で5デザイン×2色ずつ展開しています」

　アロハシャツの生地にはキュプラが使用されている。吸水性に優れ、強くしなやかなキュプラは、もともとは裏地に使用されることが多かった。その特徴を活かして、エルトップは新たな夏服としてアロハシャツを開発。2025年8月6日から、海外からの観光客が集まる富士吉田市の「富士アロハストア」で販売をスタートしている。

「郡内織物は、織る前の糸の段階で染色する「先染め」という手の込んだ手法で作られています。手間とコストがかかるため、これまでのかいくーるは白系が多く、色も限定的でした。けれども、新たにたエルトップさんが加わったり、CREATIVE BASE JAPANさんがアップサイクル（古着に新たな価値や機能を加えて別の製品として再生）した製品を展開したりと、色彩にも幅が出ています」

　かいくーるの売上の一部は、産地に還元される仕組みとなっている。

「現在、タグは一つ300円です。タグの売上は産地組合（山梨県絹人繊織物工業組合）に回り、産地組合はそのお金を使って山梨の織物のPRを行います。つまり、かいくーるが売れたら売れるほど、産地組合がPRに使える費用も増えるという仕組みです」（阿部さん）

　この流れが軌道に乗れば、将来的には、タグの価格も下げられると見込んでいる。