山梨県産ぶどう、ベトナム輸出解禁へ大きく前進 長崎知事が農相に直談判

山梨県の長崎幸太郎知事は
5月2日から8日の日程でベトナムを訪ねた。
ベトナムの農相らと相次いで会談し、
山梨県産ぶどうの
ベトナムへの輸出を要望した。
宿願だった輸出解禁への扉は開くのか。

※冒頭の写真説明:2021年11月に来日したファム・ミン・チン首相に対し、長崎知事はシャインマスカットをプレゼントした(山梨県提供)

「秋の最盛期には山梨でぶどうを堪能して」

 5月5日こどもの日。長崎知事はベトナムの首都・ハノイにいた。目の前にはレー・ミン・ホアン農業農村開発大臣が座っていた。知事は目の前のベトナム政府幹部に熱く語りかけた。

「山梨県は日本最大のぶどうの産地であり、本県の生産者が匠の技で作り上げるぶどうはまさに最高品質の芸術品です」

「峡東地域の果樹農業システムは世界農業遺産にも認定されています。ベトナムのみなさまに、山梨県産ぶどうの魅力を知っていただきたい」

農相は“ぶどう輸入”に前向き発言

 山梨県産のシャインマスカットは香港や台湾、シンガポールに盛んに輸出されている。ももなどを合わせた山梨県産フルーツの輸出額は、2021年に17.6億円となり、2019年のほぼ2倍、5年前の約3倍に膨らんでいる。

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 しかし、リンゴ、日本ナシ、温州ミカンを除き、日本産の果実はベトナムへの輸出が禁止制限されている。今回、長崎知事がベトナム訪問した大きな理由のひとつは、山梨県産ぶどうの輸出解禁に向けて農相へ直談判することだった。

知事らが視察した果実専門店(山梨県提供)

 長崎知事ら一行は会談前、街中の果実専門店を視察した。同行していた山梨県農業協同組合中央会会長の中澤昭さんは「ぶどう、シャインマスカットは、山梨県が全国トップクラスの量を生産していて、栽培技術はもちろんのこと、味、品質に於いても自信をもって日本一と言える。ぜひベトナムの皆さまに1日も早く山梨のおいしいぶどうを食べていただきたい」とぶどう輸出解禁への期待を口にしていた。

 そして、5月5日のトップ会談の結果は――。

 県側の同行者の話によると、「ホアン大臣からはその場で前向きな回答があった」という。

長崎知事と山梨県農業協同組合中央会・会長の中澤昭さん(写真右の2人)は、ハノイ市内の果実専門店などを視察した(山梨県提供)

訪問前から始まっていた独自アプローチ

 知事のベトナム訪問でスムースにぶどうの輸出解禁へ向かっているように見えるが、ここまで来るのには紆余曲折があった。

 そもそも、日本産の果実に扉を閉ざしていたベトナムに対して、日本政府はさまざまなルートを通じて解禁を働きかけてきた。しかし、一気には扉は開かなかった。

 まず2015年9月にりんごが解禁、続いて2017年1月に日本なし、2021年10月には温州みかんが加わった。だが、ぶどうは輸出できない状況が続いた。

 山梨県産のフルーツを世界に売り込むために奔走している県農政部販売・輸出支援課長の成島仁さんに、ここまでのいきさつを解説してもらった。

「まず、日越間でぶどうに関する政府協議が始まったのは2020年10月です。県としても後押しするため、2021年11月に来日したファム・ミン・チン首相に長崎知事が面会して解禁を要望しています。また、同じ時期に県農政部長が駐日ベトナム大使館を訪れ、駐日公使に働きかけをしてきました」(成島さん)

成島さん

 そして昨年9月、長崎知事がベトナム政府の訪問団が来日する情報をキャッチした。ここで知事が一気にアクセルを踏む。「なんとか訪問団に山梨で旬のぶどうを召し上がってもらえないものか」と関係部局に指示を出したのだ。

 突然の指示を受けた県職員は、ベトナム政府訪問団のタイトな日程の中に、県果樹試験場を入れ込むことに成功。果樹試験場にやってきた越日友好議員連盟のメンバーにもぎたてのぶどうを食べてもらった。

 これを機に、山梨県産のぶどうをベトナムに輸出するために県の独自アプローチが始まった。

県農政部販売・輸出支援課のメンバー。左から成島さん、渡井宏之さん、荘富盛さん、樋口さん

次の一手で、ベトナムへ職員派遣

 県販売・輸出支援課はその直後、ベトナムに「密使」を派遣した。

 突然の課長命令でベトナムに派遣されたのは、同課副主査の樋口貴聡さんだった。

 昨年11月末から12月初旬にかけて、急きょ、ホーチミン、ハノイ、ダナンの3都市を訪ねた。目的は、山梨県産のぶどうが現地で受け入れられるかの市場調査だった。

 現地を歩いた樋口さんは、ベトナムの熱気を感じた。

「街で行き交う人の多くが若い人たちで、経済成長の真っただ中にある国だなあと実感しました。とても有望なマーケットだと確信できました。とくにホーチミンは積極的に消費しようという若者がたくさんいて、圧倒されました」

 ベトナムでは、果物が欠かせない食材だ。庶民は市場や行商の人から買うことが多いが、新興富裕層らが使う百貨店やフルーツ専門店には、ベトナム産とは別に、韓国産や中国産のぶどうが並んでいた。樋口さんが現地のバイヤーに話を聞くと、「日本のぶどうを食べたことがある。韓国産や中国産に比べて味がいいことは知っている。ベトナム人は果実の味には敏感なので、味の違いがわかる。山梨のぶどうのおいしさをわかってもらえれば、価格は高くても売れると思う」という答えが返ってきた。

 すでに日本からの輸出が始まっているりんごや日本なしは、他国産のものよりも1.5倍から2倍の価格で売られていた。樋口さんはこう話す。

「山梨県産ぶどうの付加価値が認められる土壌がベトナムにはあることがわかりました」

樋口貴聡さん

膨れ上がるフォロワー、解禁に向けて現地の期待も高まる

 成島さんら販売・輸出支援課は知事のベトナム訪問後、ベトナム向けのデジタルプロモーションにも着手した。6月からの本格運用に向けて、試験的にFacebookアカウントを開設したところ、1ヶ月もしないうちにフォロワーは1500人に達し、6月末には2000人を超えた。多くがベトナム人だという。

(Facebookの画面をキャプチャー)

※Facebookのアカウントはこちら

 長崎知事は今回のベトナム訪問でグエン・スアン・フック前国家主席とも面談した。

 日本産ぶどうの輸出解禁の行方は今後、主戦場は政府間協議の場に移る。だが、長崎知事は「想定以上の歓迎を受けて、県として独自の交渉チャネルを持てた。今後は県としても独自の交渉チャネルを通じて働きかけていきたい」と話す。

 ベトナムの政府幹部は何度か山梨を訪ね、本場のシャインマスカットのおいしさを知っている。そのベトナムの人たちの表情を見る限り、実現の日はそう遠くないと、関係者らは信じている。

文・大野正人、写真・山本倫子

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