
「アートは共通言語」――山梨の学生アンバサダー、カリフォルニアでの挑戦
山梨県などから選ばれた7名の生徒・学生がアメリカ・カリフォルニア州を訪れた。
国際交流プログラム「学生アート交流カリフォルニア州派遣事業」。
言葉や文化の違いを超え、作品を介して心を通わせた4日間。
若きアンバサダーたちは、世界で何を感じ、何を持ち帰ったのか。
■この記事でわかること
✔ アートを通じて7人の生徒・学生がカリフォルニア州でさまざまな交流を経験した
✔ 共同制作や個人作品はカリフォルニアで高い評価を得た
✔ アートを活用した人材育成が実践された
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期待と緊張を胸に
2025年11月21日、ロサンゼルス国際空港に、山梨県からアンバサダーに任命された7名を乗せた飛行機が着陸した。時刻は14時5分。一行は、そのまま同じカリフォルニア州・アーバイン市にある「クールジャパンセンター」に向かった。長距離移動による疲れよりも、これから起きることに対する興奮のほうが大きかった。
生まれも育ちも異なる7名が一堂に会した「学生アート交流カリフォルニア州派遣事業」。現地4日間の行程で大きく分けて以下の三つのプログラムが用意された。
①共同アートの制作
②自身の作品をギャラリーに展示し、渡航仲間や現地の人に紹介
③現地アートの視察
この三つに加えて、現地の学生・アーティスト・市長などとの様々な交流もあった。県プログラムに賛同した学校法人21世紀アカデメイアが学校活動として10人のアンバサダーを同日程で派遣。現地での共同制作は17人を4つのチームに分けて実施された。
「学生アート交流カリフォルニア州派遣事業」の事業の大きな目的が、アートを通じて交流を図り、「自分をコントロールする力」「他者を理解する力」「他者と連携する力」といった三つの「人間力」を持つ次世代リーダーを育成することだ。国際戦略・自然首都圏推進課課長補佐の山本直子さんは「この事業は学生の作品制作を目的とはしていません。渡航前後も含めたプログラム全体を通じて、さまざまな人とコミュニケーションを深め、これからの時代をつくっていく人材の育成を目指しています」と語る。
プロジェクトの一つの目玉となる共同アートの制作では4名1チームとなり、一つの作品を完成させていく。
当日までに、山梨県がオンライン打ち合わせの場を2回用意した。しかし、各チームは個別でミーティングを重ねた。なかには、20回近く打ち合わせをしたチームもあったという。
アンバサダーの一人で、山梨大学教育学部美術教育系4年生の横山剣士郎さんは当時をこう振り返る。
「山梨、東京、大阪、ルーツがエジプトにある方……本当に多様な人がチームメンバーでした。オンラインミーティングを何度も重ねたのち、カリフォルニアで実際に会ったときの感動は今でも忘れられません」

一つの作品に心を通わせて
そんな横山さんのチームの共同作品は、「一期一会」がコンセプト。国のシンボルである生き物を描くことで、異なる背景を持つ人々が一つにつながる作品に仕上げた。

別のチームに入った駿台甲府高等学校の美術デザイン科2年生の鈴木啓史さんたちがつくったのは、鑑賞している人が「参加できる」作品だ。ロープで要となる桜の木をつくり、桜の花びらの形に切り抜いた紙を用意した。作品を見た人に、自身の夢や願いをさまざまな言語で書いてもらうことがねらいだ。背景の水墨画調の絵は、鈴木さんが手がけた。

「今回、チームリーダーになってくださった方が、人をまとめるのがものすごくお上手で。直接絵に関わることではないのですが、僕もあんなふうになりたいと感じました」(鈴木さん)

国を超えて思いが伝わった瞬間
4日間の行程のなか、横山さんにとって忘れられない思い出がある。
「突然、『ケンシロウくん、ちょっと!』って呼び出されたんです。なんだろうって思っていると、『君に会いたがっている人がいる』って」
聞けば、ギャラリーに展示されている横山さんの個人作品を見て、感銘を受けた人がいるという。相手は、現地の美術講師だった。講師は、横山さんを見るやいなや、こんな言葉をかけた。
あなたの絵には、自然への深い愛を感じる。
あなたが描いた線、色、一つひとつから、エネルギーが私に伝わってくる。
同時に、「伝えたい」という意思も響いてくる。
このことは、子どもたちにとってもとても大切なこと
自然、思い、子どもたちへのメッセージ……これらは、横山さんが創作活動をするうえで常々テーマとして掲げていることだった。
美術教育を専攻する横山さんの願いは、「子どもたちにもっと自由に表現してもらえるような環境をつくる」ことだ。
「だから、現地の講師の方にあの言葉をかけられたとき、本当にうれしかった。自分の目指している方向が正しく伝わったんだって、心から感動したんです」




収穫をふるさと山梨に還元したい
鈴木さんの作品も現地で高い評価を受けた。
「高校1年生のときに描いた絵を現地のギャラリーに展示してもらったんです。すると、ラグナヒルズの市長さんが『暗い調子の絵であるのにかかわらず、たくさんの色を感じられて素敵だ』と評価してくださいました」
鈴木さんは遠慮がちに笑いながら続ける。
「よく大人が『若いうちに世界を見たほうがいい』と言うのは、今回の事業でわかった気がします。貴重な機会をいただけて、本当に感謝しています。今後の進路はまだ固まっていませんが、自分なりの形で山梨県に還元していけたら」
横山さんと鈴木さん。帰国後も報告会や地元テレビ局の取材など、忙しい日々が続く。

アンバサダーにとって、多くの収穫があった「学生アート交流カリフォルニア州派遣事業」。彼らがこれからどんな交流の果実をもたらしてくれるのか、見守りたい。

※肩書・学年は取材当時のものです
文・土橋水菜子、写真・篠塚ようこ


