山梨学院高校野球部に続け! 山梨県勢初の甲子園優勝「やまなし文化・スポーツ栄誉賞」第1号に
山梨学院高校の野球部が
山梨県勢として初めて、甲子園で優勝した。
県は4月11日、「やまなし文化・スポーツ栄誉賞」を新設し、
第1号として同校野球部の歴史的快挙を表彰した。
山梨学院の優勝を、コロナ禍でモヤモヤした空気を一掃し、
新たな挑戦を始めるきっかけにしたい。
新表彰制度に対し、県庁はそんな思いを託した。
太く粘り強い「ほうとう打線」
3月18日(土)に開幕した第95回記念選抜高校野球大会。山梨学院は、開幕ゲームに出場し、15日間の大会を締めくくる決勝にも出場した。出場校が多い記念大会で、1回戦から出場して6試合に勝って優勝したのは、センバツ史上初の快挙となった。
その躍進を支えたのは、すべての試合に先発し、全54イニングのうち51回2/3を投げきったエース林謙吾君の力投。そして、準々決勝の対作新学院(栃木)戦は3回裏に5点、準決勝の対広陵(広島)戦では9回表に5点、そして決勝の対報徳学園(兵庫)戦では5回裏に7点と、甲子園常連の強豪校を相手に、ビッグイニングをつくって試合の主導権を握った。山梨名物「ほうとう」のように、太く粘り強く次の打者へつないでいく集中打が光る、まさに“全員野球”でつかんだ紫紺の優勝旗だった。
4月11日午後2時半、県庁の噴水広場で山梨学院高校野球部の優勝報告会が始まった。ベンチ入りした選手17人と記録員2人に加え、吉田正校長ら学校関係者が顔を揃えた。
大勢の来賓や集まった人たちの前で、キャプテンの進藤天君は「甲子園でたくさんのことを学び、多くの課題も見つけました。課題を克服して夏の甲子園出場をめざします」とあいさつ。甲子園での6試合をほぼすべて投げきったエースの林謙吾君は「甲子園でチームとして最大限の力を出すことを目標にしていました。1、2回戦はまだまだでしたが、試合を重ねるうちに力を出し切れたと思います。慢心せずに夏に向けてがんばります」と話した。他県出身のメンバーが多い中、山梨県忍野村出身の大森燦君もマイクを握り、「先日、忍野村長を表敬した際も温かい言葉をいただきました。応援のありがたさを知りました。今後も応援をお願いします」と緊張した面持ちで語った。
県保健体育課長の山田芳樹さんは、優勝報告会の様子を静かに眺めていた。
完全アウェーだった決勝
山梨学院が準決勝で広陵に勝った3月31日(金)の夜6時半、仕事を終えた山田さんは降籏友宏・教育長と2人で甲子園に向かった。翌4月1日朝、甲子園球場の前で決勝に出場する選手たちを出迎えたあと、1塁側アルプススタンドに陣取った。
中学校からバレーボールに転身したが、小学校時代は野球に明け暮れていた山田さんはアルプス席に座ると、「甲子園の独特の雰囲気で、体中に鳥肌がたちました」という。
決勝の相手は、甲子園の地元・報徳学園とあって、「3塁側だけでなく1塁側も大半が報徳学園の応援だったので、完全にアウェーでした」(山田さん)。しかし、ブラスバンド部の演奏に乗せて応援を続け、優勝が決まった瞬間、山梨学院の吉田校長らと抱き合って喜んだ。
試合後、山田さんは降籏教育長に「お祝いをやらないといけませんね」と話しながら、山梨へ帰った。そして翌4月2日(日)朝9時半に県庁に行くと、秘書課から、「県民とともに喜びを分かち合えるような優勝報告会を開いてほしい、というのが知事の考えです」という連絡を受けた。
3万人と戦ったブラスバンド部員
山田さんは課の職員3人とともに、他県での実例を調べるなど、優勝報告会の検討を始めた。
ヴァンフォーレ甲府が昨年のサッカー天皇杯を制した際は、信玄公祭りのパレードに急きょ参加する方法が採られたが、高校生のクラブ活動なので派手すぎる演出はよくない。そう考えているうちに、山田さんの脳裏に前日のアルプススタンドの光景がよみがえってきた。「アウェー感が強かった応援団にとって、ブラスバンド部の演奏がどれだけ心強かったか」(山田さん)。
4月4日、山田さんは山梨学院高校を訪ねた。新学期の学校行事や野球部の予定などを聞いて日程を決めたあと、最後に目の前の吉田校長にお願いごとをした。
「ブラスバンド部員も、優勝報告会に参加してもらえないでしょうか」
理由を伝えると、決勝の日にアルプススタンドにいた吉田校長はこう答えた。
「ありがたいお話です。ぜひそうさせてもらいたいのでブラスバンド部の顧問に聞いてみます」
4月11日に県庁の噴水広場で開かれた優勝報告会に、山梨学院ブラスバンド部員約20人の姿があった。優勝報告をした吉田洸二監督は「ブラスバンド部員が報徳学園の大応援団3万人と戦ってくれました」と話し、会場から拍手がわき起こった。
新しい表彰制度は文化にも広げて
山梨学院が優勝して週が明けた4月3日(月)朝、広聴広報グループの中村直樹・広報監と長谷川晋吾・企画監は、長崎幸太郎知事から直接、「新しい表彰制度を考えてほしい」と言われた。
知事は「山梨学院が甲子園で活躍する姿を見て、多くの県民のモチベーションが上がると思うし、『私もがんばってみよう!』という新たな挑戦者が続々と現れてくると思う。モチベーションを高めた人や新たなチャレンジを始める人たちを県は最大限に応援していきたい。そういう思いが伝わる新たな表彰制度をつくって、第1号として山梨学院野球部に贈りたい」と話した。
2人はグループ内で議論し、4月6日に2つの案を知事に提案した。
・やまなし パブリック エンパワーメント大賞
・やまなし アドバンス アワード
勇気づける、前進するという思いを込めたネーミングだったが、知事は「長い」「横文字が多い」と乗り気ではない様子で、その場で表彰制度の名称を決める議論が始まった。
幾つかのアイデアが浮かんでは消えていく中で、知事は「今回はスポーツの分野だが、今後は文化の発信にも力を入れていくので、文化の分野の人の表彰もできる名称にしたい」と話し始めた。そんな経緯があって、新たな表彰制度の名称は「やまなし文化・スポーツ栄誉賞」に決まった。
優勝報告会は平日の昼間に開かれたため、山田さんは「参加者は関係者のみで合計100人程度だろう」と考えていた。だが、実際は500人(県発表)だった。予想を大きく上回る人たちが集まり、山梨学院の甲子園制覇の喜びを分かち合っていた。
優勝報告会が無事終わった後、山田さんはホッとした様子で話した。
「山梨学院野球部の選手たちは、全国の球児たちに追われる立場となったので、これからが大変だと思います。でも、勝って兜の緒を締めよ、です。夏は山梨学院高校を含めた県内の高校球児が『深紅の優勝旗』をめざしてがんばってもらいたいです」