TGC FES 山梨 2023に甲府西高ダンス部が出演決定!未経験者がチャレンジする「新たな可能性」
昨年に続き、山梨で「TGC FES」が開かれる。
10月21日、土曜日。
『TGC FES YAMANASHI 2023』。
今年はあの有名アーティストのバックダンサーとして、
県立甲府西高校のダンス部が出演する。
今回は、高校生たちがリアルに体験する成長ストーリー。
(上の写真:ダンス部員と講師2人の全員で、甲府西高校のWestのWをつくって)
TGCは夢の舞台
ちょうど1年前のこと。
「今日、TGCだよね!」
山梨県で初のTGC FESが開催された2022年10月22日(土)、甲府西高校のダンス部は富士急ハイランドのダンスイベントに出演していた。
「部員たちの中で、自然とTGCの話題になっていました」
部長の長澤和未さんは当時を振り返る。
等身大のモデルたちが着るリアルクローズのファッションショーは、10代~20代の女子たちから絶大な支持を得ている。近年では、若者の波及力を地方の発展につなげようと2015年から「TGC地方創生プロジェクト」がスタート。山梨県で昨年開かれた「TGC地方創生プロジェクト」の新たな形態のイベント「TGC FES」では、若い女性をひきつけると同時に、山梨の特産物を広くアピールした。
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華やかなランウェイや人気アーティストによるパフォーマンスが行われるTGCは、“特別な人”しか立てない夢の舞台……長澤さんをはじめ甲府西高校ダンス部のメンバーは誰もがそう思っていた。
突然、全校生徒の前に呼ばれて……
そして2023年8月。休み明けの始業式。
突然、ダンス部員が呼ばれた。わけもわからず、全校生徒の前に並んでしばらくすると、スクリーンにEXILEなどが所属するLDHの人気HIP-HOPユニット「DOBERMAN INFINITY」(ドーベルマン・インフィニティ)が映し出された。
スクリーンの中の彼らが言った。
「今年のTGC FESは、僕たちのバックダンサーに甲府西高校ダンス部のみなさんが決まりました!」
部員たちは、最初は信じられずにきょとんとしていた。しかし、事の重大性がじわじわ来た。
「中学のときの友だちからも『TGC出るんだね、おめでとう!』って連絡がきました。気合のスイッチが入りましたね」(長澤さん)。
一大サプライズは校内だけにとどまらず、全校生徒によって、あっという間にSNSで拡散されていった。
なぜ、甲府西高校が?
そもそもなぜTGC FES出演に甲府西高校が選ばれたのだろう?
甲府西高校が山梨県で初めてダンス部を設立した高校だということだ。部員が減っていた新体操部を引き継ぐ形で1998年にダンス部に変わった。
甲府西高校のダンス部には指導者がいない。練習メニューから振付まで、すべて生徒たちが自主的に考えてきた。創部当時と変わらず、週4回の部活動に特定の練習場所もない。中庭廊下の窓ガラスを鏡代わりに、部員同士で踊りを確認している。
いつもと違う光景
しかし、今回はいつもとは違う。
放課後、午後4時半からダンス部の練習が始まった。BluetoothスピーカーからDOBERMAN INFINITYの楽曲が爆音で流れ出す。
「笑顔で!視線が落ちないように、前を見て!」
大きな手拍子でリズムを刻みながら、生徒一人ひとりの動きをチェックするのは、MASAYAさんとTAICHIさん。2人はEXILEが後進育成のために開校したダンススクール「EXPG STUDIO」で教えるプロのダンス講師だ。
TGC FES出演に向けて、全4回にわたって行われるスペシャルレッスン。2人が甲府西高校に教えに来るのは、この日で3回目だった。レッスン冒頭、2人の講師は生徒に対し、曲をあたまから通しで踊るよう指示した。
振付は覚えている。でも、ダンス素人の私が見ても、少しぎくしゃくしていた。前列の2年生に比べると、後列の1年生は振りにキレがない。
次に講師の2人は、曲のテンポを極端に遅くして、フレーズを細かく区切りながら、ゆっくりと振付の確認を始めた。ダンスは一見、パッと簡単に踊っているように見えるが、同じ動きを何度も反復する、根気のいる作業の連続だ。脚の曲げ方、手の角度まで神経を行き届かせる。
始めはうつむいていた生徒たちの顔が、徐々に上を向くのがわかった。自信を得てきた証だろう。
1分30秒を踊りきるために
じつは、甲府西高校ダンス部22人の大半がダンス未経験者である。
基礎練習やアイソレーション(体の一部分だけを動かすダンス法)などのトレーニングを、先輩が後輩に教えるかたちで受け継いできた。
学園祭では毎年、流行りの曲にのせたダンスで会場を沸かせる。生徒たちがペンライトを振って応援する様子はライブさながらの盛り上がりだ。それでもダンス大会に出場すると、他の出場校に比べてまだまだ力が足りないと感じることが多いという。
長澤さんはTGC FES出演が決まってから、練習メニューに新しくランニングを加えた。
「普段は3分間ぐらいの曲を踊っているのですが、今回は4分30秒の曲でした。残りの1分30秒を踊りきるためには持久力をつけないといけませんから」
できることはなんでもやる。土日も猛練習して、振付を覚える。指導者がいない環境だからこそ、部員が主体的に取り組んでいる成果は大きい。
レッスン中、講師のTAICHIさんが「決めポーズは甲府西高校っぽくしよう。みんなで相談してみて」と、生徒たちの自主性に任せるシーンも目立つようになった。
午後6時半、窓の外が暗くなるまで練習が続き、最後は曲に合わせて本番同様に踊ってみた。すると、レッスン冒頭とは比べ物にならないほどタイミングが揃い、床を踏み込む足音が力強く響いた。
たった2時間で、うつむきがちだった部員たちの表情に明るさが戻り、“お客さんに届けたい”という思いがストレートに伝わってくるダンスに変化したのだ。
成長できる方程式
今年のTGC FES 山梨のイベントテーマは“Treasure Box -crossover-”。フルーツやワインなど、魅力的な山梨ブランドが現代トレンドとクロスオーバーすることで、新たな可能性を開いてほしいという期待が込められている。それはモノだけにとどまらず、人も同じこと。
プロのダンサーを多く育ててきた講師の2人は、普通の高校生がTGC FESで踊ることについて、「この経験が、次の目標に向けてチャレンジするきっかけになってほしい」と話す。
「誰にでも、“成長できる方程式”がある。高校生たちにはダンスを通して、頑張ったら頑張ったぶんだけ、自分が変わることができると感じてほしい」(MASAYAさん)
部長として全体を俯瞰して見ることが多い長澤さんも、この日は特別な成長を感じたという。
「日々少しずつ変わっている感覚はありましたが、今日はみんなの曲に対する姿勢が何十倍も深まっていた。講師の先生の一言で、次の踊り方が全然違っているのにびっくりしました」
レッスンを重ねるごとに、ダンス部の団結力も増している。
「絶対に忘れられない思い出にするために、みんなで意見を言い合って、私たちにしかできないステージをつくりたい」
TGC FESという起爆剤で、高校生たちの成長スピードは本人たちも驚くほどに加速している。
プロが考えた振付を踊ることで、新たな発見もあった。
「自分たちでは考えつかないような振付が入っているので、今までやったことのない体の使い方などを、部員同士で研究する場面が増えたと思います」(長澤さん)
「みんな、私たちを見て!!」
練習が終わると、顧問の先生が大きな段ボール箱を抱えて入ってきた。生徒たちが飛びつくように開けると、中から出てきたのは紫色のお揃いのTシャツ。
「かわいい!」
イラストが得意な部員がデザインしたというオリジナルTシャツを、嬉しそうに胸に当ててみる。初めて自分たちで作った衣装は、大きなお目目のイラストに、「DANCE」のロゴとビックリマークが印象的なデザインだ。
「お客さんに、私たちを見て!とアピールしたくて、目とビックリマークにしました」という満面の笑顔がまぶしい。
集合写真を撮らない?と持ちかけると、手を重ねるポーズで、「ダンス部がんばるぞ!アイ―!!」と元気いっぱいに叫んだ。
「ダンス部は仲の良さが一番!」というだけあって、過酷な練習中も、笑い声が絶えない。この気合で本番まで駆け抜けていく、という意思の表明のように。
ダンス部の活動報告は、順次Instagramに載せている。
※甲府西高校ダンス部公式Instagramはこちら
まもなく、TGC FESの会場で踊るみんなの笑顔が見られる。
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文・北島あや、写真・今村拓馬