ととのえました!「山梨県サウナ満喫セット」

富士山、八ヶ岳、南アルプス、奥秩父……。
大自然に囲まれた山梨県は、アウトドアサウナにうってつけのロケーションだ。
そんな「やまなし自然サウナ」を体験できるスペシャルセットが、ふるさと納税の返礼品で登場した。
著名なサウナライターをも唸らせたこのサウナパス。
この企画を「ととのえた」のは、当時入庁2年目だった小林未歩さん(冒頭の写真)だ。

■この記事でわかること
✔ 今年度の山梨県のふるさと納税返礼品は若手職員のアイデアで開発された
✔ 返礼品として選ばれた「サウナパス」は県内のアウトドアサウナなど6カ所で利用できる
✔ 若手職員で構成されたワーキンググループは、職員の経験値アップにもつながっている

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ウエディングVSサウナ

 2024年9月、山梨県はふるさと納税の返礼品に、県内の六つの自然サウナ施設で利用できるチケット(=サウナパス)を追加した。

 返礼品は寄附額に応じて2パターン用意した。5万円の寄附でもらえるのは、1万円分のサウナパスと、和紙製サウナハットやオリジナルステッカーといったグッズだ。2万5千円の寄附でも、サウナパス6千円分とステッカーが届く。

 返礼品の選定には、若手職員のアイデアが活用された。

「山梨県の新しいふるさと納税返礼品を企画する」ワーキンググループが発足したのは2023年7月。主体となったのは小林さんを含む4名の若手職員だ。事務局担当者として、1名のベテラン職員も加わった。

 まず着手したのは、返礼品の企画だ。会議の場で案を出し合い、メンバーそれぞれが、自身の企画のブラッシュアップを進めた。小林さん発案の「サウナパス」も、その一つだった。

「私は、山梨県で生まれ育ち、大学は県外に進みました。そのときに、改めて山梨県の自然の素晴らしさに気がついたんです。たとえ世の中がどんなに便利になっても、山梨県の空気や水の美しさは、どこにも持ち運ぶことができない。そんな魅力を丸ごと体験してもらえるのが、自然サウナだと考えたんです。もちろん、私自身もサウナが好きというのも理由の一つです」(小林さん)

 企画会議では「1日知事体験」「東京ガールズコレクションとのコラボイベント」「県内の遺跡で発掘体験」など、さまざまな意見が挙がった。

 そのようななか、サウナパスとともに返礼品の有力候補だったのが、広聴広報グループから同ワーキンググループに参加した小松昇太さんのアイデア「県庁ウエディング」だ。

「県庁の敷地内にある山梨県庁舎別館は、昭和初期に建てられた非常に趣のある建物で、県指定有形文化財でもあります。昭和のモダン的な雰囲気を残し、映画のロケにもよく使われていて……そこで、結婚式ができたら素敵だなって」

 現在、独身だという小松さんはそんな夢を語ってくれた。

小松昇太さん

 県庁ウエディングは「類を見ないアイデア」と、グループ内でも大絶賛された。また、「結婚式=華やか」という印象もあり、県の「目玉返礼品」になることも期待された。

 しかし、県庁ウエディングは惜しくも選ばれなかった。

県オリジナルの返礼品開発

 なぜ、県庁ウエディングではなく、サウナパスが返礼品に決まったのか。

 当時、資産活用課からワーキンググループの事務局担当者として参加した伊藤さんは「ふるさと納税の返礼品を考える際、私たちが意識しているのが、県にしかできないオリジナル品を企画することです」と話す。

「そういう意味では、県所有の建物を活用する県庁ウエディングも、サウナパスも素晴らしい案だと思います。サウナパスは、希望を募って協賛してくれた6つの施設で使用することができます。複数の施設を『ワンセット』にして提案するのは、県でしか成しえないことでした」

ワーキンググループで若手の議論をマネジメントした伊藤さん

 同時に、「山梨県が現在力を入れていること」に対する視点も欠かせないという。

 返礼品を選定していたとき、山梨県は民間事業者などと協力しながらアウトドアサウナを起爆剤に観光客を呼び込む「やまなし自然サウナととのいプロジェクト」を推進していた。サウナパスを返礼品にすれば、プロジェクトとの相乗効果も見込める。

 結果、民業圧迫をせず、民間の力を活用できるサウナパスが返礼品として採用された。

※“やまなし自然サウナととのいプロジェクト”の詳細はこちら

サウナライターも絶賛

「絶対に、絶対に挑戦してみたいと思いました」

 取材中、それまでは穏やかな口調だった小林さんが、語気を強めた。

 職員用のwebページで公募を知ったとき、思わず心が躍った。「公募」「若手」「企画」といったフレーズが目に飛び込んできたのだという。

「私は、入庁2年目で、今回のワーキンググループに立候補しました。ずっと企画に関する仕事に挑戦したいと思っていて。公募の中には、『私には到底務まらない……』と思うようなものもありますが、今回は若手職員を中心に応募を募っていたので、迷わず手を挙げました」

 小林さんは「ワーキンググループは、若手職員にとって貴重なチャンスでもあります」と話す。

 サウナパス企画が採用された後、対象となる施設に挨拶に回った。小林さんにとって、「県庁の外」にいる事業者の人と直接接するのは、そのときが初めてだったという。

 小松さんや伊藤さんに同行してもらい、事業の説明の仕方やコミュニケーションの深め方まで、背中を見て学んだ。関係各所の意見を取り入れ、地元の製紙事業者と共同で県立青洲高等学校が開発した、生コンクリートを加工する際の排水を有効活用した和紙製サウナハットも、返礼品に盛り込んだ。

返礼品に盛り込まれた和紙製サウナハット

 こうしてサウナパスが返礼品として完成にこぎつけた。

 このサウナパス、愛好家の評価はどうなのだろう。

 全国230カ所以上のサウナ施設をめぐり、著書『絶景サウナ旅』(三笠書房)が「Saunner of the Year 2024」に選出されたサウナライターの川邊実穂さんは、サウナパスについて熱く語る。

「山梨県といえば、やっぱりアウトドアサウナ!サウナパスを使えば6つのアウトドアサウナ施設をお得に回れるなんて、サウナ好きには夢のような返礼品です。豊かな自然の中でのサウナ体験は、特別な思い出になること間違いなしなので、次のサウナ旅の候補先としてもぜひチェックしたいと思います」

*サウナ啓蒙活動に貢献した11名(団体・企業)が選出される。サウナ界のミシュランとも呼ばれる「SAUNACHELIN(サウナシュラン=TTNE株式会社)が運営。毎年11月11日の「ととのえの日」に「今行くべき全国のサウナ施設」や「Saunner of the Year」が発表・表彰される。

 小林さんは「普段の仕事では体験できない貴重な機会でした。今後も興味のあるワーキンググループがあれば、ぜひ応募したいです」と振り返る。

 山梨県では、若手職員の成長を促すと同時に、若いアイデアを県政に反映するため、ワーキンググループをいくつか立ち上げてきた。ふるさと納税の返礼品企画のほかにも、「人口減少問題」について若手が議論し、知事に提言したケースもある。

 ワーキンググループを通じて、今後も、「あっ」と驚くような企画が生まれるかもしれない。

文・土橋水菜子、写真・今村拓馬

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