サンシャインレッド総決算! 開発が進む次世代ブドウも……

シャインマスカットと肩を並べるブドウに育ってほしいと関係者が期待を寄せる県オリジナル品種のサンシャインレッド。
あなたはすでに体験済みだろうか?

今シーズンから市場に本格参入したサンシャインレッドはどう受け止められたのか。
さらに、いま開発が進んでいるという、新たなブドウの話も聞いてみた。

■この記事でわかること
✔ 希少なサンシャインレッドを確実に食べられるカフェが大人気
✔ 東京の高級フルーツ店には「未入荷」
✔ 品種の流出防止のため、さまざまな対策に取り組む
✔ 黒系ブドウはコクや酸味を重視して開発中だ

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贅沢パフェで旬のブドウを食べくらべ

 この夏、やまなしin depthで取り上げて大反響だった山梨県立博物館の併設カフェ「Museum café Sweets lab 葡萄屋kofu」のスイーツ。8月24日から販売開始した「サンシャインレッドのグラデーションパフェ」に続いて、9月から旬のブドウを堪能できるスペシャルなパフェが登場したと聞き、編集部はカフェを訪れた。

 1日10食限定のスペシャルパフェは、数種類の旬のブドウがのったプレート。提供されるブドウは時期によって変わり、9月上旬の取材時にはサンシャインレッド、シャインマスカット、マスカサーティーン、クイーンセブン、クイーンニーナ、クイーンマスカット、ナガノパープルの7種類を食べくらべることができた。

1日10食限定で提供されたスペシャルパフェ(撮影・今村拓馬)

 一方、大粒のサンシャインレッドが16粒飾られている「サンシャインレッドのグラデーションパフェ」はもちろん大人気だった。砕いたサンシャインレッドの果実を甲州ワインと合わせ、ゼラチンで固めた緑のジュレと、黒ブドウの人気種「マスカット・ベリーA」のワインと巨峰の実を混ぜた赤色ジュレが2色の層になる。サンシャインレッドの特徴である“フローラルな香り”と“華やかな甘み”を存分に楽しむことができる。

「サンシャインレッドのグラデーションパフェ」(撮影・今村拓馬)

 サンシャインレッドは年々出荷量を増やし、今年は県内の直売所で見かける機会もあった。しかし、まだ“運が良ければ出会えるかも……”という状況だ。そんなサンシャインレッドを確実に、しかもスイーツとして楽しめるとあって、店内はパフェ目当ての客で賑わっていた。

 サンシャインレッドで山梨が盛り上がっている。となれば、県外ではどうだろう?

高級フルーツ店の反応は……

 9月上旬、筆者は高級果物を扱う東京の「新宿高野」に問い合わせてみた。サンシャインレッドが本格的な収穫時期を迎え、そろそろ都内の高級果物店の店頭に並んでいるかもしれない――という期待があったからだ。

 取材に応じたブランド推進課部長の秋山智則さんは「現状ではサンシャインレッドの取り扱いはありません」と言う。

 山梨では有名なサンシャインレッドだが、全国の市場では認知度が低いのが課題だ。長崎幸太郎知事が昨年、大田市場で県産ブドウのトップセールスを展開するなど、PRに力を入れている。しかし、サンシャインレッドに限れば今年はまだ十分な出荷量を確保できておらず、全国に流通させることが難しかった。

まだまだ希少なサンシャインレッド(撮影・今村拓馬)

 県は2023年度までに県内のブドウ農家に約1万5000本の苗木を供給。果樹は成長とともに収穫量がアップするため、昨年3.7tだった出荷量は、年々増えていく見通しだ。

 秋山さんは「サンシャインレッドは美味しくて希少価値が高いブドウなので、今後ぜひ販売について検討したいと思っています」と話す。

 来年は、全国の百貨店や果物店でサンシャインレッドを買える可能性が高まりそうだ。

「やまなしブランド」を守るために対策さまざま

 県は生産量を増やす一方、「やまなしブランド」を守る対策にも力を入れる。

 2024年4月、「種苗法」が一部改正され、海外への種苗の持ち出し制限など規制が強まった。

 ブドウは枝1本からでも簡単に増やすことができるため、国外への流出が後をたたない。高級ブドウ品種のひとつである石川県の「ルビーロマン」の種苗が韓国に流出してしまう問題もあった。県はこうした事例を踏まえ、サンシャインレッドを守る対策を強化している。

 サンシャインレッドの苗木は「山梨県オリジナル品種ブランド化推進会議」が県の許諾を受けて一括で生産・販売を行っている。さらに、県では海外での品種登録や商標登録を進めており、万が一、海外に流出した際にも対抗策を取れるようさまざまな手を打っている。

 また、生産者に対しても、苗木を購入する際に「他の人に譲渡しない」などの取り決めを定めた誓約書を提出してもらうようにしている。

黒系ブドウの開発が本格始動

 サンシャインレッドが華々しくデビューした舞台裏では、すでに新たなオリジナルブドウの開発が進んでいるらしい−−。

 次に来るのは、どんなブドウなのか。

 山梨県果樹試験場・副場長の曽根英一さんは「サンシャインレッドが軌道に乗ってきた2022年ごろから、本格的に“黒系”の開発に乗り出しています」と話す。

曽根英一さん(撮影・山本倫子)

 2022年に植えた黒系ブドウの木が、今年初めて実をつけた。ブドウ品種開発担当の小林正幸さんは「黒系ブドウの開発は、緑系のシャインマスカットや赤系のサンシャインレッドよりも難しい。開発はまだ道半ばです」と付け加える。

 色素成分のアントシアニンが多いほどブドウの果皮色が濃くなるが、その分渋みが強くなるという性質がある。

「シャインマスカットはアントシアニンが入っていないから緑色なんです。色が薄いから渋みがなく栽培しやすい。色が濃くなるほど食味に影響が出やすく、色の濃淡を均一にしなければいけないなど、課題が多いんです」(小林さん)

 また、黒系ブドウには優秀なライバルがたくさんいるというハードルもある。

 「巨峰や甲斐キングなど、黒系は人気の品種が多い。こうしたブドウよりも味がいいものをつくるのは至難の業です」(小林さん)

 サンシャインレッドは華やかな甘みが特徴だった。黒系はどんな味を目指しているのだろうか。

開発担当の小林正幸さん(撮影・今村拓馬)

 小林さんは「黒系ブドウの魅力はコクや酸味があるところ。始めはシャインマスカットのような甘さを求めがちでしたが、思い直しました」と話す。

 そのきっかけとなったのは9月。果樹試験場に県外のメディアやパティシエが視察に来たことだった。

「パティシエのみなさんが黒系ブドウに注目していて驚きました」

 甘すぎず酸味のある黒系ブドウは、ケーキなどの加工品にも向いている。そう気づいた小林さんは発想を転換した。「サンシャインレッドの黒バージョンだけではなく、まったく新しい食味も探したい。味のバリエーションを増やすためにも、視野を広げて開発に取り組んでいます」

 ブドウは遺伝子を調べることで、5cm程度の幼苗の段階で、何色に着色するか分かるため、黒系ブドウになる幼苗を多く残すことができる。例えば、500個体の幼苗があっても、遺伝診断することで、半分の250個体の幼苗を選抜できる。これらの幼苗は全て黒系ブドウになるため、開発の効率化が図られる。それでも、見た目や味の試験をクリアして生き残るブドウは限りなく少ない。

「皮ごと食べられて種がないブドウの開発は他県でも進んでいる。負けないように、サンシャインレッドのような自信作をつくりたい」(曽根さん)

 サンシャインレッドは開発に15年かかった。次世代ブドウの登場が待ち遠しい。

文・北島あや

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