米不足の救世主になるかも! 三つ星シェフも大絶賛の「にじきら」が六本木ヒルズデビュー

「令和の米騒動」がなかなか終息しない中で、明るい話題が飛び込んできた。
山梨県奨励品種の「にじのきらめき(通称にじきら)」が東京進出を果たした。
デビュー会場は東京・六本木ヒルズ。

暑さに強くておいしい「にじきら」の魅力で、ファンを拡大中だ。

■この記事でわかること
✔ 山梨県奨励品種「にじのきらめき」が、六本木ヒルズの「田植え」イベントに初めて選ばれた
✔ きっかけは、depthの「にじきら」記事だった
✔ 山梨県内の生産者からも「にじきら」に関する問い合わせが来て、作付面積は倍増の勢いだ

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六本木ヒルズが「にじきら」で初コラボ

 5月24日、東京・六本木ヒルズの屋上庭園で「田植え」の体験イベントが開催された。

 六本木ヒルズの初夏の風物詩となっている田植えイベントでは、“東京から地方の魅力を発信”をテーマに地方自治体とコラボレーションして、毎年異なる地域のお米を育てている。

 今年で21回目を迎えるイベントは大人気。近隣居住者やワーカーなど、260人の応募者の中から抽選で選ばれた150人が参加した。山梨県が推奨する新種のお米「にじのきらめき」を手作業で植え付ける。

 じつは、このイベントに山梨県が選ばれたのは初めてのこと。なぜ、山梨県に白羽の矢が立ったのか――。

選ばれたきっかけはin depth

 昨年11月、県庁の東京事務所に思わぬ電話がかかってきた。相手は六本木ヒルズのイベント担当者だった。

「来年のイベントで、『にじのきらめき』とコラボレーションさせてほしい」

 これまで山梨がイベントのコラボ対象になることはなかった。県外の人からすると山梨県といえば果物で、米どころのイメージはあまり強くなかったのだろう。

 しかし、昨年10月に掲載したin depthの記事をイベント担当者が読んで、初めて「にじのきらめき」を知り、衝撃を受けたという。

※「暑さに強くて、おいしい」と三つ星料理人も太鼓判 山梨県産「にじのきらめき」を全国へ売り込め!(in depth記事)

 この記事に登場する江﨑新太郎シェフは、「ミシュランガイド東京」で7年連続三つ星を獲得したすごい人物だ。江﨑シェフは愛情込めて「にじきら」と呼び、そのおいしさを大絶賛している。

 六本木ヒルズの担当者は、江﨑シェフが東京駅や新宿、渋谷に出店しているお弁当専門店「えさきのおべんとう」の大ファンだった。そこで「江﨑シェフがそんなにおいしいと言うなら、ぜひ食べてみたい」と県に問合せたという。

 前回の取材時、江﨑シェフは「一度食べれば、その味は伝わるはずですから。早く東京デビューさせたいです」と話していた。その願いがin depthを通して六本木ヒルズに届いたのだ。

泥だらけでも笑顔

 六本木ヒルズ屋上庭園には、都心の高層ビルとは思えない豊かな自然が広がる。水田や畑、季節の樹木と草花、池にはさまざまな生き物がいて、子どもたちがカエルを捕まえようと走り回っていた。

 田植え体験が始まると、子どもたちはおっかなびっくり、そろそろと田んぼの中へ足を沈めた。苗のかたまりをほぐしながら、少しずつ植えていく。

 初めは少し歪んでいた苗の列も、だんだん植え方のコツをつかむと、きれいな直線に並ぶようになる。約1時間、泥だらけになって作業を続けると、田んぼ一面がにじのきらめきで埋まった。

 山梨県のPRコーナーでは、県オリジナル品種のさくらんぼ「甲斐ルビー」や最高級の南部茶でつくられた「プレミアムリーフティー」が参加者に振る舞われた。口にした人たちからは「甘い!」「おいしい」と歓声が上がった。

 さらに山梨県の観光PRキャラクター「武田菱丸(たけだひしまる)」が登場すると、子どもたちが駆け寄って大人気に。

 イベントは子どもたちの楽しそうな笑顔と共に大盛況に終わった。

8割が回答「コシヒカリよりおいしい」

「にじきら」の魅力はなんといってもそのおいしさにある。

 県はPR施策の一環として、県内5か所の宿泊施設で「コシヒカリ」と「にじきら」の食べ比べを実施した。すると、アンケートでは8割の人が「にじきらの方がおいしい」と回答した。

 江﨑シェフは県のYouTube動画で「にじのきらめき」を使った料理を提案し、長崎幸太郎知事とその魅力について語っている。

江﨑シェフ「粒が大きくて食べ応えがある。むっちりした甘みがあって、すごく気に入りました」

長崎知事「本当に美味しいお米ですね。それに、どんな食材にも合います」

江﨑シェフ「にじきらは食材をうまくまとめて、融合することができるんです」

※「にじのきらめき」山梨の大地の恵み 新たに煌めく県産米(Youtube動画)

 他の食材の良さを引きたてながらも、お米のおいしさをダイレクトに感じることができる。特に、冷めてもおいしいところが特徴で、おにぎりやお弁当にも最適だという。

 江﨑シェフが「初めて食べたとき、あまりのおいしさに驚きました」と語る「にじきら」は、一度食べたらやみつきになること間違いなしだ。

農家でも「にじきら」支持が拡大中

「にじきら」を生産している山梨県北西部は、古くから米作りが盛んな地域だ。南アルプスと八ヶ岳連峰の山々に囲まれ、ミネラルをたっぷり含んだ水が流れる。さらに日照時間が非常に長いため、質の高いお米ができる。

 この地域で生産されたお米は県のブランド米『梨北米(りほくまい)』として知られ、過去に5年連続食味コンテストの最高評価『特A』を獲得している。

 しかし、県食糧花き水産課長の對木啓介(ついき・けいすけ)さんは「近年は温暖化の影響で品質を保つことが難しくなっている」と話す。

イベント参加者に山梨のコメの魅力をアピールする県食糧花き水産課長の對木啓介さん(右)

 山梨県で作付面積の7割を占めるコシヒカリは暑さに弱い。

 一方、にじのきらめきは、暑さが続いても品質が落ちにくい米として、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が開発した。高温耐性に優れた「なつほのか(西南136号)」と、「北陸223号」を交配して育成され、2018年に品種登録された。

 さらに、にじのきらめきはコシヒカリよりも20㎝ほどかん(稲の茎)が短くて強い。稲が倒れてしまうと、起こしてから刈り取りを行うため時間と労力がかかってしまう。良質な米を育てる上で、倒伏しないのはとても重要なことなのだ。

「県は倒伏しにくく暑さに強いにじきらを推奨しているのですが、昔ながらの『コシヒカリ信仰』が根強く残っている。にじきらを栽培する農家を増やすにはどうすればいいか、農政部は頭を悩ませていました」(對木さん)

 と、ここで再び登場するのが「やまなしin depth」――!

 對木さんは「農家のみなさんから『にじきらは暑さに強くておいしいとin depthに書いてあった。うちもつくりたい』と問合せの電話がかかってくるようになりました」と喜ぶ。

 消費者だけでなく、「にじきら」の魅力は生産者にも確実に浸透している。2024年の作付面積は35haにとどまったが、今年は大幅に増える見込みだ。

「にじきら」を食べたい!

 ここまで記事を読んだあなたは「にじきら」を食べたくて仕方ないのでは?

 今年の収穫分は10月頃、JA梨北の3つの直売所とオンラインショップ「マルシェ梨北」で販売する予定だ。

 JA梨北の職員は「年々収穫量は上がっています。スーパーに並ぶまではあと2~3年かかるとは思いますが、期待して待っていてください」と言う。

 六本木ヒルズのイベントに参加した母娘は、「田植え体験でにじきらに愛着が湧いた」と山梨県産のお米に注目していた。PRブースでも、にじきらのサンプル品を見て「どこで買えるのか」と聞く声が相次いだ。

「にじきら」が収穫時期を迎える9月中旬には、六本木ヒルズの屋上にも黄金色の稲穂がなびく。

 對木さんは「次は稲刈りイベントがあります。『にじきら』をアピールするチャンスが舞い込んできている」と期待感を語る。

 どんどんファンを増やして、「にじきら」が山梨県の代表品種になる日も遠くない。

文・北島あや、写真・今村拓馬

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