コーディネートが実を結んだ「山梨の医療機器製造拠点」

 山梨県が、高い技術を持つ県内企業に医療機器関連産業への進出を促すプロジェクト「メディカル・デバイス・コリドー」は2020年から始まった。その取り組みが実を結んで稼働する工場の製造ラインが富士河口湖町にある。製造ラインには、思いのほか人の姿が少ない。実は、この「自動化」こそが、成功のカギだった。首都圏の医療機器メーカーとのマッチングに至った経緯を追った。

老舗企業が決断した理由とは

 加藤電器製作所(本部・山梨県富士吉田市)の製造拠点である「K2工場」。その一画で、医療機器の生産が続いている。同社は1963年の創業以来、県内でものづくり企業として成長を続けてきた。2000年ごろからは半導体事業を中心に規模を拡大し、県外にも関連会社を持つ。グループ全体では従業員が1000人を超える県内有数のものづくり企業だ。主要な取引先には大手の半導体メーカーや車載電装品メーカーが並ぶ。

 県内有力企業がなぜ主力の半導体とは全く異なる医療機器を手掛けることになったのか。

「ここでは医療機器のディスポーザブル製品(使い捨て消耗品)を作っています。昨今の新型コロナの影響もあり、医療の現場でニーズが高まっています」

 同社の林営業本部アドバイザーは、そう話してこう続けた。

「弊社は売上の70%が半導体で、医療機器分野は10%程度にすぎません。しかし、半導体は非常に製品のサイクルが早い。例えばiPhoneでも1〜2年もすれば新しい機種が発売される。そうなると、当然ながらそれによって求められる半導体も変わってしまう。常に新しい開発が求められるので、とても厳しい業界です」

加藤電器のMED事業グループ長の渡辺孝さん(右)と営業本部アドバイザーの林睦夫さん

 同社は近年、150〜170億円程度の売り上げを推移してきたが、さらなる売上増と経営の安定のために他分野への参入を検討した。そうしたなかで浮上したのが、製品サイクルも長く、安定した売り上げを見込める医療機器分野だった。同社は12年前から参入を試みた。

なかなか参入できない「厚い壁」

 ただ、医療機器分野は製品サイクルが長いという利点がある一方で、参入が難しい分野だった。

「半導体は製品サイクルが短い分、新しい製品を開発すれば参入できるチャンスも大きい。しかし、医療機器分野はそう簡単ではありません。以前から作っている企業があるからです。そこで私たちは、新しい製品が出たときなどにうまく参入していくことにしました」

 しかし、そう甘くはない。参入に成功すれば製品サイクルが長い分だけ利益が安定する。そんな医療機器分野を、大手企業が放っておくはずがない。いま医療機器分野には異業種の大手企業が続々参入しており、競争が激化している。

やまなし産業支援機構新産業創造部の内藤亮部長(左)と県産業労働部成長産業推進課の西平隆樹副主査(撮影・今村拓馬)

センターの突然の知らせから1年で生産スタート

 医療機器分野に参入を始めたものの、なかなか新規のビジネスに繋がらない……。そんな矢先、加藤電器に山梨県のメディカル・デバイス・コリドー推進センターからマッチングの話が舞い込んだ。

 東京を拠点に活動しているメディカル・デバイス・コリドー推進センターのコーディネーター、大森武さんが県外の企業を回る中で、「新規に開発した製品があって、これを量産化したい。しかし、自分たちには工場スペースがない」という要望を首都圏の会社から受けた。

 メディカル・デバイス・コリドー推進センターのコーディネーターは県内企業の特徴や能力も把握している。そこで白羽の矢が立ったのが加藤電器だった。決め手となったのは「工場内のクリーンスペース」に余力があったことだ。

「弊社では空いているクリーンスペースを常に用意しています。製造委託の話があればすぐに対応できるので、スピーディーに受託生産を始めることができます」(林アドバイザー)

 行政が間に入っているという安心感も手伝って、話はとんとん拍子で進んだという。

「メディカル・デバイス・コリドー推進センターの方から2020年の末ごろに話をお聞きし、先方の企業と面談をしました。契約もすぐにまとまり、そこから製造ラインをつくりました。製品ができるまでは1年くらいかかりましたが、新規事業としてはものすごく早いスピードでできました」

「FA」で50人がかりの作業を4人で!

 加藤電器の武器はクリーンスペースに余力があるだけではなかった。もうひとつの武器は、半導体事業で培った高い製造技術だ。

「私たちはFA(ファクトリー・オートメーション)という自動化技術に強みを持っています。既製品の機械を使うのではなく、それを改良して最適化してから導入します。今でも自動化で製品を作っていますが、さらに改良を試みています。現在進めているのは、製品を作った後の工程です。製品を包装する作業は人手でやっていますが、これを自動化する仕組みを作ろうと改良を進めています」

自動化技術が進んだ加藤電器の工場内

 こうしたFA化により、過去には50人で行っていた作業が4人で済むようになった例もあるという。

 半導体製造で培った高い技術を使い、医療機器分野にも参入を果たしていく。これこそ、メディカル・デバイス・コリドーが描いていた「山梨県内企業のポテンシャルを活かす」という実例だ。

県外のコーディネーターを大幅増員

 この成功体験はメディカル・デバイス・コリドーにとって、計画の方向性に確信を抱かせることになった。つまり、製品を一から開発する高いハードルに挑むばかりではなく、開発済みの製品を持つ企業への部材供給や生産受託のマッチングに成算を見出したのだ。

 この成功を受けて、県外でのコーディネーターの活動がより重要になると判断し、大森さん一人だった県外コーディネーターの人数を一気に7人体制に増員した。全員が専従ではないとはいえ、思い切った増員だ。今後さらなるニーズの把握や企業との連携を図っていくという。

 県成長産業推進課の西平隆樹さん(新分野進出担当)は、「2019年現在の医療機器市場において、日本は約285億ドルと米国に次ぐ大市場を形成していますが、国内市場は世界全体の7%を占めるに過ぎません。メディカル・デバイス・コリドー推進センター開設以来、国内メーカーとの部材供給取引が拡大してきました。このノウハウを国外との取引にも応用し、海外の広大な市場と高い成長性を山梨県内に取り込めるのではないか。そうしたポテンシャルを最近感じています。」と話す。

 メディカル・デバイス・コリドーの取り組みは来年度からセカンドステージに入る。予防医療、健康維持に対する需要の高まりを受け、デジタル・AI技術の活用や衛生用品・健康食品などにも支援の対象を拡大していく。また、国内外のスタートアップとの連携を進め、巨大な海外市場参入への挑戦も支援していく。県内産業の活性化を目指し、「メディカル・デバイス・コリドー2.0」に向けた積み重ねが始まろうとしている。

文・小川匡則、写真・小山幸佑

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