身近なところにSDGsはある! フォーラム2024で見えた2つのヒントとは

最近はやりのSDGsだけど、具体的にどんなことをすればいいのか説明できる人は多くないのでは。
“持続可能な未来をつくる”なんて漠然としたテーマじゃわかりづらい。
もっと身近なところから関心を持ってもらいたくて、
山梨県は2024年3月10日、「やまなしSDGs フォーラム 2024」を開いた。

人気モデル・タレントのトラウデン直美さんと
コメンテーターのモーリー・ロバートソンさんによるトークセッション。
俳優の工藤阿須加さんによる持続可能な農業を考えるトークショー。
TikTokクリエーターでタレントの景井ひなさん、タレントの村島未悠さん、
お笑い芸人の「ぺこぱ」とSDGsに取り組む県内高校生によるクロストーク……。

50を超えるブース出展エリアには、SDGsグルメやいろいろ体験できるワークショップ、
スポーツチームによる体験コーナーなどもあって、
子どもから大人まで、「見て、学び、体感」していた。

そのなかでも注目してほしい、2つのSDGsな取り組みがあった。

◼️この記事でわかること
✔ 青洲高校の生徒が校内の「強アルカリの排水処理」という課題を解決した
✔ ワインをつくるときに出るぶどうの搾りかすが容器になって生まれ変わった
✔ SDGsのキーワードとして「アップサイクル」に注目が集まっている

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人に押し付けない! SDGsは身近なところにある

 イベントのトークショーに出演したトラウデン直美さんは、「富士山も登ったことがありますし、山梨の自然が大好き。ここ山梨に来ると、不思議なことにストレスがふっと抜ける感じがします。そこが好きなんです」と言う。

 モデル・タレントとして活躍し、人に影響を与える彼女だからこそのSDGs観を尋ねると、こう答えが返ってきた。

「一番意識しているのは、“人に押し付けない”ということですかね。皆さんのヒントになるようなことを発信できたらと思っています。自分だけが良ければいいっていうことじゃなくて、自分の家族や隣の人を大切にしていけば、その先に地球全体の幸せがあると思うんです。それがSDGsにつながるんじゃないかな」

 そう。SDGsは押し付けるものではなく、身近なところにある。そのことをはっきりわからせてくれたのが、高校生9人だ。

イベントでプレゼンをした青洲高校商業科の9人

工業科が処理に困った強アルカリの液体

 メインステージの「SDGs研究発表コーナー」で、県立青洲高等学校商業科の生徒9人が発表を始めた。約10分間の発表途中に何回か声を揃える場面があった。

「ビジネスチャンス!」

 みんなで考えた合言葉には、環境問題を改善するだけではなく、商業科としてSDGs をビジネスにつなげたい思いが込められている。

 取り組んだのは、「生コンクリートを加工する際の排水を利用して、和紙を製造する」という研究だ。第31回全国高校生徒商業研究発表大会で、山梨県勢初となる最優秀賞を受賞した。

 3年生チームリーダーの浅原みきさんは、「始めた当初はSDGsを意識していたわけではありませんでした」と話す。研究のきっかけは、工業科の生徒たちが困っている姿を見たことだった。

 生コンクリートを加工する際に強アルカリ性の排水が出る。薬品で中和してから産業廃棄物として処分しなければならない。2023年春、工業科の生徒たちから「実習の排水処理で手が荒れてしまう。どうにかできないか」と依頼を受けた。

青洲高校の丹沢実友さん(左)と浅原みきさん(右)

和紙づくりの課外授業がヒントになって…

 チームでアイデアを出し合うなかで、1年生のときの課外授業で「市川和紙」づくりを体験したことを思い出した。青洲高校は市川三郷町にある。市川和紙は千年続く町の伝統産品で浅原さんも製造体験をしたことがあった。

「あの課外授業のとき、紙の原料となる植物の繊維をほぐす作業に、強アルカリ性の液体を使ったよね!?」

 和紙業者では、原料を柔らかくするために「苛性ソーダ」を使っていることがわかった。工業科の排水でもできるのでは? 早速実験してみると、遜色なく植物の繊維をほぐすことができた。

 排水を有効活用して、環境にやさしい和紙がつくれることはわかった。次は、これを商業的にどうアピールすれば、“魅力的なヒット商品”になるのか――だ。

「みんなで和紙工場を見学したとき、“水に濡れても平気な和紙”をつくる技術を知りました。近年のサウナブームに乗って、洗って何度も使える“和紙製サウナハット”は珍しい商品として注目されるのではないかと考えました」(浅原さん)

 1個3000円で売り出したところ、サウナ愛好家たちから「洗って使えるところがいい」「熱を遮断してくれる」などと好評だった。玉川高島屋(東京・世田谷)の催事場で2023年10月に販売、山梨県内の道の駅にも出店し、60個以上を売り上げた。

屋内, 異なる, テーブル, 座る が含まれている画像

自動的に生成された説明

1つ1つ手作業でつくる。気の遠くなる作業も……

 そのサウナハット、でき上がるまで結構手間がかかっている。

 サウナハットの和紙を漉(す)くのも生徒たち。ピンク、ブルー、イエローなど様々な色のグラデーションをつけるのも手仕事。生徒たちが自由に色をつけるため、どれひとつとして同じ色のサウナハットはない。一番大変だったのは、和紙の原料となる植物のゴミをひとつひとつピンセットで取り除いていく「塵取り」という工程。放課後、外が暗くなるまで気の遠くなる作業を続けた。

 2023年6月に作り始めて2か月かけて改良を重ねた。始めはサウナハットの縫製を生徒が手縫いしていたが、温泉施設で一般客に使用してもらうモニター調査で「糸がほつれる」などの欠点が見えてきた。品質面を考量して縫製は業者委託に切り替え、9月に和紙製サウナハットの第一号が完成した。

「1個つくるのに2~3週間かかります。かなり手間と時間がかかるんですよ」(浅原さん)

 そんな丁寧なものづくりが話題となり、“和紙製サウナハット”は2024年4月1日から山梨県ふるさと納税の返礼品に選ばれた。

他校と差をつけたキーワードとは

 県の商業研究発表大会で優勝し、進んだ全国大会での快挙。商業科教員の髙橋美寿々さんが指導した。髙橋さんは教員になって2校目。前の学校から県の商業研究発表大会を指導しているが、熱心に取り組んでくれそうな生徒に声をかけてメンバーを選抜している。

「好奇心があって、熱心にやってくれる人を選んでいます。話した当初はみんな戸惑うんですが……」(髙橋さん)

 大会に向けて毎日練習を繰り返すなかで結束力が生まれてくる実感があったという。高校2年生で新リーダーに就任した丹沢実友さんは、「プレゼンは練習と本番合わせて350回以上やりました。大会に出場して一番良かったのは、メンバーとなんでも言い合える、家族みたいな絆ができたことです」と話す。

 髙橋さんは青洲高校の勝因について「他校は地域の特産物などを宣伝する発表が多く、環境問題と絡めた研究発表は見当たらなかった。校内の排水問題からスタートして、地域文化の発展や環境問題にもつなげた“アップサイクル”な取り組みが評価されたのかなと思います」(髙橋さん)

 新リーダーに今後の夢を聞くと、「次も全国1位をめざします!」と力強い答えが返ってきた。

ぶどうの搾りかすからつくった意外なもの

 甲府市で廃棄物処理業を営む降矢商店が出展していたブースに並ぶのはプラスチック製のタンブラーやマイボトルだ。タンブラーの側面には「wineloop」とある。loop(ループ)は輪を表すことから「繰り返す」という意味でも使われる。「ワインが繰り返す」ってどういうこと?

 降矢商店の常務、降矢圭紀さんは「このコップは廃プラスチックとぶどうの搾りかすでできているんです」と話す。約10年前から、ぶどうの搾りかすを県内のワイナリーから回収するようになった。ぶどうの搾りかすを社内の乾燥設備で粉末にすることで、家畜の飼料に混ぜ込めないかと考えた。

 ぶどうの搾りかすは水分を含んでいたり、発酵が始まっていたりして、うまく乾燥できない。3シーズンほど試行錯誤を繰り返したある日、コンタクトレンズで有名なメニコン(本社・名古屋市)から乾燥のノウハウを教えてもらった。

 メニコンは他の食物残渣を飼料にする事業の協業相手だった。環境バイオ事業部の藤原明士・部長は、コンタクトレンズのプラスチックケースの端材を有効活用できないかと考えていて、降矢商店のぶどうの搾りかすと混ぜて容器をつくればいいのではないかと考えた。

メニコン環境バイオ事業部の藤原明士さん(左)と降矢圭紀さん(右)

 試作品をつくっていたとき、大手飲料のグループ会社からも「一緒にやろう」と声がかかった。その結果、生まれたのが、「wineloop」プロジェクトのタンブラーとコップだ。

 このコップは、JR甲府駅前の城のホテル甲府で2月末から、朝食やラウンジで使われていた紙コップに代わり使用されている。

 まだビジネスとして成り立つ規模ではないが、降矢さんは「ぶどうのほかにも杉皮やコーヒーなどもプラスチックに混ぜられないか試作をして協業パートナーを探しています」と意欲を語った。

キーワードはアップサイクル

 2023年のSDGsフォーラムでは、燻製商品を販売している会社とクラフトビール会社が出会い、それをきっかけに「燻製ビール」が生まれた。⼭梨県政策企画グループの深沢健さんは2024年のフォーラムのキーワードとして「アップサイクル」を挙げた。

 リサイクルは廃棄物から必要なものを取り出したうえで原料・材料に戻して再利用することを指すのに対し、アップサイクルは元々の材料をそのまま使って再利用する意味で使われる。青洲高校の強アルカリ性の廃液を和紙づくりに使ったのは、まさにアップサイクルに当たる。

「アップサイクルを進めると、企業なら他業界への進出や他業種とのパートナーシップの必要性が出てきます。そうすることで企業は新規事業を起こしたり、新たな事業戦略を立てたりすることに役立つと考えています」(深沢さん)

 たしかに、降矢商店の「wineloop」は今はまだビジネスとしては成立していないが、新規事業へ発展する可能性がある動きだとは言える。だから、難しく考えなくていいんだと思う。学校の中の問題を解決したり、企業の今後を考えていったりした先に、きっとSDGsがある。

※文中の肩書・学年は取材当時のものです

文・北島あや、写真・今村拓馬

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