「介護待機者ゼロ」はなぜ、働く世代・学びの世代の現実問題なのか

介護待機者ゼロ、と聞いて強く反対する人は少ないだろう。
しかし、若い世代からは「また高齢者を重視か」と冷めた声も聞こえてくるに違いない。
介護待機者ゼロに対する受け止め方は、現代の世代間格差を象徴する。
「山梨県から介護待機者をゼロにする」と目標を掲げた長崎幸太郎知事に
施策にかける思いを聞き、貧困が生む連鎖に直面する現場の声に耳を傾けた。

ネガティブ思考に陥らない

人口減少の問題はなかなか解決しません。どう対処するつもりですか。

 大変困ったことで、社会においてさまざまなマイナスの影響を与えていますが、
見方を変えれば、県民の皆さん一人ひとりに、よりきめ細かく行政の目を行き届かせることができるのではないか、あるいは、個々の人が持っているさまざまな可能性に目を行き届かせて、その可能性を開花させる取り組みを効果的に行えるのではないかと考えます。

ただただ悲観するだけでなく、ポジティブに捉え直すということですね。

 山梨県がめざしている「県民一人ひとりが豊かさを実感できる山梨」もこの文脈の中にあります。トータルでのGDPの大きさ、あるいは人口の大きさを競うことがもうできないとすれば、一人当たりで考えて、つまりそれぞれの方々がより豊かになる方策を考えていく方向にシフトせざるを得ないと考えていますし、その取り組みを実際行っているところです。

介護は若い世代にとって大きな問題

どの分野を重点的に整備していくのでしょうか。

 誰一人取り残さず、県民すべての可能性を開花させる上での最大の課題は、やはり、なんといっても教育と介護であろうと思っております。
 
 介護について、私はこの山梨県から介護待機者をゼロにしたい、と考えております。これは単に、施設に入るご高齢の方だけの問題ではなく、現に働き、またこれから働こうとしている若い世代にとっても極めて大きな問題であると思います。

「介護待機者ゼロ」が若い世代にどう関係するのですか。

 いま、少子化の流れの中で働く世代一人が責任を担う親御さんなど高齢者の人数が増えています。当たり前のことですが、たとえば、一人っ子同士が結婚すると、その夫妻が責任を担う親御さんは4人になります。近年では、結婚されたご夫妻の半数以上が共働きとなることが統計上も明らかとなっています。その中には2人で働いてようやく家計を維持できている方々も相当程度おられるものと思います。

いまは「共働き」が普通です。

 そうですよね。ここで、4人の親御さんのうちのどなたか1人が要介護状態になると何が起こるでしょうか。

夫婦のどちらかが面倒をみることに……

 在宅介護は、私も経験したことがありますが、フルタイムで働いている者にとっては、極めて過酷で難しいものになります。そうなると、夫婦お2人のうちどちらかは仕事を辞めないといけなくなります。いわゆる「介護離職」です。
 
 2人で働いてようやく家計が成り立っていたのに、うち1人が辞めてしまったらどうなるか。これがまさに「貧困への第一歩」になってしまうリスクが一気に高まります。では、「介護離職→貧困」の連鎖を避けようと思えば何が起こるか。
 
 子どもに介護を任せるしかない。そこで「ヤングケアラー」の問題をひき起こしてしまう恐れがあるわけです。

介護は、高齢者だけの問題ではないということですか。

 「介護待機者ゼロ」の問題は、高齢者だけではなく、働く世代から学ぶ世代まですべての世代の人々にとって、実は心の奥底で不安に思っている最たる問題ではないかと思います。そこで、私は、「介護を必要とする人はどこかの施設に入所できます」という環境をまず作ろうと考えました。そうすることで、若い世代の皆さんに安心して働いていただける。伸び伸びと学んでいただける。そのためにも欠くことのできない施策だと考えています。

2026年に「介護待機者ゼロ」を実現したい

「介護待機者ゼロ」に向けた具体的な道筋を教えてください。

 山梨県には施設に空きがないために在宅を余儀なくされている介護待機者が1800人ほどいると推計されています。私たちは、これを2026年度までにゼロにしたい。いま、各介護施設の受け入れ能力を上げる取り組みを進めています。

予算措置も必要になってきます。

 県の負担額として、年間約6億円のランニングコストが必要になると推計されています。この費用は毎年必要になるものですし、国が想定するよりはるかに高い水準をめざすものですから、国からの補助を当てにすることもできません。自前でこの費用を集めるため、県の資産を高度活用して収益を生み出す仕組みができないかというのが、いまの大きなテーマです。

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介護待機者ゼロは単なる「高齢者向けの施策」ではない?

 そのとおりです。「可能性の開花」をすべての県民の皆さんとともに行っていこう、すべての県民の皆さんの可能性というものを花開かせるために、介護待機者ゼロに取り組んでいこうと思っています。


友だちに誘われても遊びにいけない

地域支援活動をする内藤陽一さん(中央)=写真は内藤さん提供

 県内のこども食堂約40団体が加盟する「やまなし地域こども食堂グループ にじいろのわ」の代表を務める内藤陽一さん(51)は、貧困と介護からヤングケアラーにならざるを得ない実例を目の当たりにしてきた。

「私が知るある小学生の子は、ひとり親の母親に代わって要介護の祖母をケアしています。祖母は家庭の事情で施設の利用料を払う事が出来ず、費用負担が少なく済む自宅での介護を余儀なくされています。本来必要なサービスを満足に受けられない中で、その子しか介護の担い手がいない。友だちから遊ぼうと誘いを受けて、『今日は遊びに行きたいよー』と言って親に訴えることもありますが、遊びに行くこともかなわない状況です」

 内藤さんは10年以上前から地域の子どもたちを育む活動を始め、「にじいろのわ」の代表になって約3年がたった。

「様々な社会課題を抱えるこどもたちが、生きて行く上での経験値が少ない」

と心配する。自身が運営するこども食堂では、コメを洗剤で洗おうとした子にも出会った。「ただ食べてもらうだけではなく、調理体験などを通じて生きていく知恵を伝えたい」と話す。

 内藤さんは最後にこう話した。

「生きるための知識や知恵が少ないと、大人になって、介護を受けなければならない要因の生活習慣病などになる恐れが大きい。負の連鎖をどこかで止めなければいけないと日々感じており、地域の大人達がこども達に伝えていく事が重要です」

聞き手・文 大野正人

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